1994/4/23 藤井猛五段—櫛田陽一五段(早指し新鋭戦)

感想

櫛田陽一五段との早指し新鋭戦。

櫛田五段とは、前局の順位戦では藤井五段が居飛車にしたが、本局は3手目に☗7五歩と三間飛車を示した。戦型は先手石田流対後手居飛車穴熊となった。後手は☖5四歩を突いておらず、☗5六銀に☖8四飛と浮いて☗4五銀が受かる形。角道を通したままガチガチに固めようとしている。

藤井五段はそれでも☗4五銀、☗9五角、☗9七桂~☗8五桂とあの手この手で揺さぶりをかけていく。42手目は☖8四飛なら千日手の可能性もあったが、櫛田五段が☖5一銀と手を変えた。少なくとも櫛田五段は「やれる」と見ていそうだ。しかし先手も☗8五桂まで跳ねることができ一歩得で左桂を捌いた。陣形差はあるが、先手に不満はないと思う。

櫛田五段は銀冠穴熊に組み替え☗4五銀の働きを緩和する。そして☖6四歩と徐々に動きを見せてきた。次に☖6五歩の仕掛けがあるので藤井四段も☗5六銀と銀を受けに使いつつ立て直すが、その後の藤井五段の☗4八金左を見て☖4四角という、いかにも誘っているような手が出た。☗4五銀が目に見えるが、☗4八金左との組み合わせが悪いだろうと言っている。

本譜、藤井五段は☗4五銀と出た。対して☖5五角が☗4八金左を咎めているような角出で、☗4七金上とするのがちょっと悔しい。それでも細かいやり取りから先手は飛車の成り込みを実現した。櫛田五段は☖7七角から☖9九角成ではなく☖8六角成が狙いで、桂馬を取りながら飛車を世に出そうとしている。

ゆっくりしていられない先手は☗4一角を含みに玉頭から仕掛ける。ここから玉頭戦になったが、先手玉が戦場に近く、一見後手有望なのではないかと思った。しかし97手目☗1四歩に☖同香が物凄い迫力だが、☗2三歩成から逆に先手の攻めが決まりそうだ。そして先手玉は意外と寄らない。そうなると後手は飛車を捌く一手が間に合っておらず、難解か、もしかしたら先手が良いかもしれないと思い直した。

そこで櫛田五段は☖6四飛とし、竜を消しながら飛車を捌いた。108手目の手番は後手にあり、ここが一番の恐怖であったが、櫛田五段は先手の攻め筋を消すような手を選んだ。112手目☖2四飛成の局面は先手の左辺が広く、藤井五段が良くなったように見えた。

131手目☗2九玉。桂馬の補充も大きいが☖2六竜が怖い形。☗2八香☖2七香☗同香☖同竜で一間竜の形になったが、そこで☗2八歩で問題なし。藤井五段が極めて冷静に終盤を乗り切っていく。

149手目☗3三銀も見事な決め手。☖3三同金は後手玉が詰む。

銀冠穴熊に対し一段竜+玉頭攻め+☗4一角の組み合わせが効果的に入った。急所を突く攻めの厳しさが勉強になった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

角交換後、先手が飛車を成り込んだ局面は後手に700点程度振れていて、印象より少し大きい程度。97手目☗1四歩の局面は既に先手に1000点程度振れていた。先手の端は破られたも同然だったが、寄らない上に後手玉に手がつくようになっているのが大きい。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第13回早指し新鋭戦(主催:テレビ東京)