1994/4/27 藤井猛五段—内藤國雄九段(王座戦)

感想

内藤國雄九段との一戦。内藤九段とはこれが3局目で、対戦成績は1勝1敗。内藤九段の自由な指し回しに唸ることが多く、並べていて面白い。本局はプロ入り後初の七大タイトル本戦トーナメント対局。

先手は藤井五段。3手目☗9六歩、5手目☗1六歩と内藤九段の態度を聞いたが内藤九段はお付き合い。相振り飛車を避ける意図があったと思うが内藤九段の作戦がハッキリせず、14手目藤井五段の方から☗2六歩と居飛車を明示した。その後も内藤九段は振り飛車居飛車両方できる指し方をしてきたが、22手目☖3二金で相居飛車がハッキリしてきた。力戦形だ。

23手目☗7九角が図にも採用された興味深い一手。

左銀や左金を動かすのが普通に思えるが先に角を引いた。どのみち☗2四角の狙いになるが、展開によって☗7七銀や☗6七銀など、左銀の動き方を後で選択できる意味合いがあると思う。本譜も後手の動きに応じて☗6七銀とすることができた。

内藤九段は早めに中央から動いて角を捌く。☗3六歩にも対応した動きだ。藤井五段は☖5五同角に☗3七桂。桂頭が弱そうなだけに強気な手に見える。この桂馬が使えれば大きい。しかし当然、内藤九段は桂頭を攻めてくる。

この桂頭攻めは先手の角道も止めているが、それでも37手目、端攻めを敢行した。41手目☗1三歩に☖同香なら☗1二歩が受けづらいだろうか。☗1三歩が取れないようでは先手が一本取っているようにも見えるが、44手目単に☗1五香と走るのではなくさらに☗2二歩を利かした。

端に近づけるようで損に思えるが、この小技でこの金がどんどん玉から離れていく。最終的には☖1二金まで追いやった。地味ながら、この小技が後の大技を生みだす。

角交換後の57手目☗1六角が鋭手!

角のレーザービームが決まった。この角は遠く☖6一金もにらんでいる。金が☖3二にいたままではこの技は利かない。金を端に追いやった意味がここに出てきた。☖3二飛しか受けがないが☗2四歩で攻めが止まらない。飛車先破りが確定し、薄い後手玉は粘りが利かない。先手も居玉だが周りに金銀がいるため安心感がある。見事な組み立てだった。

最後は☗5三歩~☗5五桂と、急所をとらえて投了に追い込んだ。

藤井五段、この頃になると、もうベテラン棋士の玄妙な指し回しに惑わされれることなく、力戦形の将棋もきっちり勝ち切っており、地力の向上を感じさせる。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

右肩上がりの完勝譜。内藤九段相手に藤井五段が大技小技を交えて勝ち切った。お気に入りの将棋。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第42期王座戦本戦(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)