1996/3/22 藤井猛六段—北浜健介四段(王将戦)

感想

第46期王将戦初戦、北浜健介四段との戦い。北浜四段とは3週間前に指したばかりで、藤井六段が勝った。

本局は藤井六段が三間飛車を採用。4手目☖6二銀に右四間飛車の雰囲気が漂っていただろうか。藤井六段の三間飛車は珍しい訳ではないが久々だ。

☖1四歩の端歩を突き返さなかったことで藤井六段は振り飛車穴熊を匂わせる。19手目☗7七桂に対し、北浜四段は棒金で行くことに決めた。それを見て藤井六段も☗1六歩から美濃囲いにする。この将棋の形が決まってきた。三間飛車対棒金はメジャーなテーマだが、最近はほぼ見なくなった。

☖8三金~☖7二飛に対し☗9七角で備えているが、☖7二飛の瞬間☗8六歩と突いた。☖7四歩が怖いが、8六の地点に飛車が逃げ込めるようになっているのが大きい。北浜四段はもう一つの弱点である☖9五歩から角をどかしてきたが、結局☗8五歩型が実現し、棒金がなかなか捌けない形になった。

☖4五歩にも☗7九角を活かしてすぐ☗4六歩☖同歩☗同角と反発。藤井六段が主導権を握っている。

49手目☗4三歩。

急所の一手だが北浜四段はなんとこれを取らなかった。飛車は幸便に4筋に移動でき、銀と香「と」の交換と見ているのだろうか。既に勝負手の様相を呈している。対して藤井六段も65手目☗5五角と銀の頭に角を逃げた。

これは角銀交換を狙っているのではなく、☗7三との存在が大きく、角と金銀の2枚替えを狙ったものだった。

72手目の局面で形勢判断をしてみると、金銀銀と角香の交換で藤井六段が大きく駒得、玉の堅さも先手、手番も先手。駒の効率は☗9九飛の働きがやや弱いが☗6九飛となれば復活を見込める形。また後手の☖4二飛は働きが良いが、玉飛接近形で良い形とは言えない。総じて藤井六段がかなり良さそうだ。

後手から一番厳しい狙いは☖5五角~☖3六桂。73手目は☖5五角や☖4二飛の活用をしっかり防ぐ☗5六銀だった。北浜四段は端にアヤを求めるが、☗2六桂が攻防の一着。☗3四桂が飛車角両取りだ。ただし、☖1七歩成から精算され☗1七同玉の形になったことから、王手で☖4四角と逃げられ飛車にも角にも逃げられた。しかしこれもおそらくは読み筋通りで、この楔が入ったことが大きいと見ているだろう。

藤井六段は73手目☗5六銀から、85手目☗1六歩に93手目☗4七金など、一貫して丁寧に指している。そして働きの弱かった☗9九飛をいよいよ5九に活用し、99手目☗1二銀から寄せに入った。

棒金の受け流し、角の活用、駒得と美濃囲いの堅さを活かした丁寧な対応、最後の寄せ、序盤から終盤まで見事な将棋だった。

藤井六段はこれで5連勝。ここ10戦を9勝1敗とし非常に調子が良い。この流れで全日本プロトーナメント決勝五番勝負を迎える。

評価値

評価値(YaneuraOu(tournament128-cl4) NNUE 20240528/tanuki-wcsc34/1手15秒

棒金への対応が見事だったが、その後の指し回しも目を瞠るものがあった。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第46期王将戦一次予選(主催:毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟)