1996/3/8 前田祐司七段—藤井猛六段(順位戦)

感想

第54期順位戦最終局、前田七段との戦い。藤井六段はここまで6勝3敗、前田七段は2勝7敗。前田七段は既に降級点が決まっている。

戦法は藤井六段の四間飛車に前田七段は居飛車穴熊模様。しかし18手目に☖4五歩!突然角道を開けた。似た動きは1週間前の北浜健介四段戦(1996/3/1・棋王戦)でも見られた。

この時期は藤井システム封印期間。藤井システムを使わない代替手段として、☗9八香(☖1二香)が入っていない形での極めて早いタイミングの☖4五歩ポン戦法を用意したのではないかと想像する。本局は☗8八玉すら入っていない。

☖4五歩に☗2四歩は☖同歩☗同飛☖7七角成☗同桂☖3五角がある。前田七段は角交換を拒否して後手が浮き飛車にする展開になるかと思われたが、前田七段はさらに☗6五歩と突っ張って来た。そこで☖3五歩!がまた驚愕の一手。

☗3三角成☖同桂☗2四歩☖同飛☗同飛にはどうするのだろう。実戦は仕掛けず自陣を整備した。前田七段は執拗に☗6六角とこのラインに角を据え、浮き飛車にさせない意志を感じる。既に小競り合いが発生したため、先手はもう穴熊に組むような展開ではなくなった。少なくとも藤井六段の狙い通りの進行ではありそうだ。

浮き飛車にできないときの後手の手作りをどうするか難しかったが、左の金銀をズズッと前に押しやっていった。位を分厚く保ちながら最前線にいる先手の角や2五の歩にプレッシャーを掛けている。

前田七段は☗2六飛~☗3六歩と動く。飛車が前線に出てきて金銀の厚みに近づいており、放置していても☗3五歩は☖同銀が飛車に当たる。5七への角の成り込みはあるものの、後手にチャンスが巡っているように感じる。藤井六段は65分読みを入れ、☖7四歩から空いた地点に角を据え、☗7四歩を咎めるような反撃に出た。☗4六歩と角道を止めるが、ここは後手の飛車がいる筋であり待ち受けているところでもある。桂跳ねから角を追われても冷静に引いておいて「桂の高跳び歩の餌食」の形。藤井六段がリードを奪った。

56手目☖3三歩も手堅い。☖3五同金でも良さそうだが、後の☗1一角成が受けづらい。極力駒を渡さずリードを広げようとしている。

66手目☖8六歩が参考になる一手。☗同歩は☖8七歩、放置しても☖8七歩成で、玉や金が動けば☖4九飛成がより厳しくなっている。

72手目で前田七段投了。後手だけ一方的に飛車を捌き、攻めが続きそうな形。厚い形を作って動いてきたところに効果的なカウンターを決めた藤井六段の快勝譜となった。

評価値

評価値(YaneuraOu(tournament128-cl4) NNUE 20240528/tanuki-wcsc34/1手15秒)

22手目☖3五歩に☗2四歩は、☖同歩☗同飛☖1四角という手があるようだ。次は☖2二飛のぶつけがある。藤井六段の積極的な序盤の作りで終始支配的であった。快勝譜。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第54期順位戦B級2組(主催:毎日新聞社、日本将棋連盟)