1995/3/10 藤井猛五段—川上猛四段(新人王戦)

感想

川上猛四段との対局。川上四段とはこれが3局目で、対戦成績は藤井五段の過去2勝。

過去の将棋を見ても、川上四段は持久戦急戦どちらを採用するか分からない。本局は3手目藤井五段が☗9六歩と様子を見た。ちょっと変わった序盤になるかと思ったが、川上四段は比較的早いペースで☖4二銀~☖5三銀と左銀急戦をの態度を明らかにした。27手目☗5六歩まで、☗6七銀型四間飛車対居飛車急戦の基本的な形となった。四間飛車は☗9六歩が入っており、一見後手番で指しているようだが、藤井五段は☗9六歩を活かすことを構想に含めることが多く、この端歩は無駄手には見えない。

川上四段は左銀急戦の形だがなかなか仕掛けてこない。30手目にしてようやく☖6四銀と出た。☗4六歩を待っていたようだ。38手目☖7三銀引で準急戦の形にし、あくまでじわじわやっていく方針だ。

四間飛車側は先手番であり、☗9八香も☗4六歩も入っている。☗9八香が入っていることはメリットであり、☗7六歩からの反発を考えたくなるが、☗4六歩が入っていることで☗4六角と出る筋がなくなっている。これは先手番ならではの悩みで、居飛車は振り飛車に「多く手を指させている」意味がある。この局面は案外知らず、藤井五段がどう対応するか興味深かった。

藤井五段は☗5九角~☗5七金~☗3六歩~☗4五歩。

手が進んだ形を最大限に活かすべく、6筋を補強しつつ角の転回を図った。☖6五歩も☗同歩の姿勢だ。☗9八香が活きている。川上四段の対応の早さを見ると定跡なのだろうか。この対応は後に石田和雄九段戦(1997/8/22・順位戦)でも出てくる。46手目☖5三銀☗4七金の間合いは洗練された手順であることを感じさせる。一手一手の変化が多く、もっとゆっくり考えてみたい将棋だ。

52手目から、☖8六歩~☖6五歩でいよいよ開戦。四間飛車としては☖7三桂が入らないまま戦いになったことは歓迎に思える。とは言え59手目からの☗7八銀~☗7七同桂はすごい対応。☖8八飛、☖8六飛、☖7六歩など、後手からの厳しい手がいくつも見えるが怖くないと言っている。実際、65手目☗7九歩の形になると、たった一手で鉄壁ができあがった。

あとは藤井五段は攻めまくるターン。71手目☗6六角に☖2二香はいかにも苦しい受けだが、その後☗2二角成!という手が出た。

角香交換で、しかも壁の香車を取って、一見相当損な手だが、後の☗4六桂がそれ以上に厳しい手だった。☗3四桂を拠点にし、続々と攻めが刺さる。89手目☗6四桂もちょっと面白い手で、通常両当たりの形は悪形(☗3四桂が4二の金取り、☗6四桂が5二の金取りで、4二の金を取れば5二の金に逃げられるし、5二の金を取れば4二の金に逃げられてしまう形)であるが、この場合は☗5二桂成~☗4一竜が厳しい手になる。とにかく☗3四桂の拠点が光っている。

藤井五段が攻めに攻めてそのまま決めた。7筋の鉄壁は崩されることなく、高美濃は手つかずで残った。振り飛車理想的な勝ち方だった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

快勝譜

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第26期新人王戦本戦(主催:赤旗、日本将棋連盟)