1995/3/1 藤井猛五段—松浦隆一六段(NHK杯)

感想

前局から約1か月間があいた。

NHK杯予選第1回戦、松浦隆一六段との一戦。松浦隆一六段とは過去1戦しており、1敗(1千日手)。デビュー直後の順位戦で千日手後の死闘の末、痛い逆転負けを喫した苦い記憶がある。

藤井五段は久々に先手を取る。前回の対戦では千日手局で相振り模様対抗形となったが、本局もそのようになった。

序盤、藤井五段が三間飛車から7筋の位を、松浦六段は☖4五歩~☖4五銀と玉頭方面に位を取った。☖1四歩に☗1六歩と突き返さなかったのを見て、振り飛車穴熊にすると思った。玉頭の位から遠ざかるには穴熊に入るのが良い。

27手目☗7六飛。☖6一金型なので☗7四歩からの歩交換は☖7二飛などの手段を与えてしまうので歩交換せず単に浮いた。それを見て☖5二金右。ここで☗7四歩は☗7六歩と浮いた手が損になるので指しづらい。ただ将来的に歩交換から☗7二歩の筋はいつでも狙うことができる。

29手目☗3八金でいよいよ穴熊を目指す姿勢を明らかにした。37手目☗2八銀まで組めて一安心だ。

38手目☖2六歩から歩交換してきたが、ここからの藤井五段の反発が見事だった。単に☗2七歩と銀を追い返すのではなく、☗5五歩。

☖3五銀☗3六歩☖4四銀引とみるみる銀が後退することになった。やはり安易に☗2七歩と受けるよりも、もっと良い手が無いか考えないといけない。5筋の歩が切れるので、単に☗2七歩と打った局面と比べ、先手の持ち歩が0枚ではなく1枚になる。47手目悠々と☗2七歩と傷を消した局面は、先手への攻めも見込めない上、後手の玉形が整っておらず、先手の作戦勝ちをハッキリさせた局面だと思う。

53手目☗6四歩は取れば☗7四歩☖同歩☗6四角があるので厳しい。

駒の損得がない状態でリードしていることが分かる。☖6二飛は苦しそうな対応。藤井五段は☗8六飛☖6四歩☗8三飛成とあっさり竜を作ることに成功した。逆に松浦六段としては竜を作らせても☖8二歩から追い返せるし、馬も作れるのでこれが一番頑張れる順と見たのだと思う。しかし先手陣は65手目☗5八銀でますます固くなった。駒の効率がほぼ変わらないとすれば、陣形の固さで先手が大きくリードしている。

73手目☗5七銀の局面。松浦六段は駒を後退させていかにも粘っている順。苦しい局面を全力で耐えようとしている。ならばと藤井五段は自然に駒を押し上げていく。後手陣はバラバラとは言え100%守りの態勢なのですぐに押しつぶせる形ではない。ゆっくり攻め駒を増やしていけば良い。

106手目、☖2四歩という手堅い手は☗4六金からぐいぐい行く順がありそうだ。☖3五銀は竜に当てながらそれを防ぐ手だが、☗4一銀からのスパークが決まった。

☗9七角の利きが絶品だ。この後で馬を追う☗3七桂という手も出た。穴熊は弱体化するが、もはや先手陣に攻めは来ない。

最後は☗8一竜と桂馬を取って終局となった。じわじわとリードを広げ、ついには後手陣への攻めが急所に刺さるようになっており、先手陣には一切攻めがないという終局図。藤井五段の快勝譜だった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

53手目☗6四歩の段階では既に先手にやや振れている。以降はゆっくり勝ちに行った将棋そのもののグラフになっており、☗4一銀からは勝ちになっている。概ね印象通りのグラフだった。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第45回NHK杯争奪戦予選(主催:NHK、日本将棋連盟)