1994/2/22 藤井猛四段—高橋道雄九段(王座戦)

感想

対振り飛車の大家、高橋道雄九段との対局。高橋九段とは約1年半ぶりの対局。前局は藤井四段の後手で、高橋九段の天守閣美濃に敗れた。しかし藤井四段も追い込んでいた。本局は藤井四段の先手で、藤井四段の四間飛車に高橋九段の端歩突き居飛車穴熊となった。

本局は自戦解説掲載局。この自戦解説では藤井四段が当時考えていた対居飛車穴熊積極策のことや、☗6六銀型を用いない理由が書いてあり貴重だ。

43手目☗4九飛。この局面は9筋の端の付き合いを除き、真部一男八段戦(1991/9/20・王位戦)と同一局面。

真部八段戦では藤井四段が居飛車を持っていたが、真部八段の☗4九飛の構想が秀逸で、本局藤井四段が振り飛車をもって素直に取り入れた歴史のある将棋。

真部八段戦では藤井四段は☖8四角~☖7三桂と右桂の活用を急いだが、高橋九段は☖7三角はそのまま、先手玉への睨みを残しつつ、徹底防戦する構えを見せた。

46手目☖3三金、いかにも☗2五桂と跳ねたくなるが、藤井四段は69分の大長考で☗2五歩。なるほど、☖7三角の睨みが強烈で、☗4五歩と仕掛けるなら☗2五桂と跳ねない方が良い。そして後手の指し手が難しい。高橋九段は61分の長考返しで☖5二飛。ここで藤井四段が☗4五歩と仕掛けた。この辺りの長考合戦は熱が入っていて、棋譜を並べていても手に力がこもる。

高橋九段は☗4五歩に☖4二飛と受けたが、1手前の☖5二飛の意味が難しい。指す手に困っているような印象があり、藤井四段が作戦勝ちになっているのではと思った。

62手目☖4二銀は飛車先を通しつつ、☗4六飛を牽制している手と思ったが、後の変化で☗4六飛に☖5六歩は☗同飛☖同飛☗同歩で後手に手が無いと書いてありなるほどと思った。しかしそれよりも☗8五桂~☗8六角の駒運びが冷静。やはり後手に手が無いことを見切っている。藤井四段の端角+☗7七桂はいつも見事な結果をもたらせてくれる。67手目☗4六飛で後手の主張がなくなり、先手は2歩得の上左桂も捌いた。作戦勝ちから優勢近い形勢になっていると思った。

その後の☗4八金左と引き締める手や、じっと☗4七飛とした手も勉強になった。後手から暴れる順を消している。

81手目の☗4五銀は自戦解説によると「本局で一番気に入っている手」とのこと。手の良し悪し以上に、対局者の主観的な感情が入っている解説が良い。確かに藤井好みの手厚い一手で、この銀を拠点に☗5四桂や☗3四銀、☗4三歩成とどんどん手が生まれた。また、☗4五銀に☖8四飛~☖8七飛成が☗6七銀に当たるが、この銀は結局取られることは無かった。その辺りを見切っているのも素晴らしい。

以降はガジガジ流の寄せ。なかなか攻め切るのは難しい気もしたが、115手目☗4二金とし、後手から駒が手に入ることを見越している。素朴だが一度攻められるので難易度の高い手だと思うが、藤井四段はすべて読み切っている雰囲気を感じる。

後手は歩があれば116手目☖4七歩と打つところだろうが歩切れ。☖4七桂にがっちり☗3八金打と埋め、必要な駒であった桂馬を入手して寄せた。

完璧な内容だと思ったが、自戦解説では127手目からの詰み逃しを悔やんでいた。しかし、自玉が寄らないということを読み切っていることの方が大事で、若者らしい悩みだと思った。

これでプロ入り後初の本戦入り。藤井四段の快進撃が続いている。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

意外なことに、67手目☗4六歩のところはほぼ互角と言っている。穴熊が高く評価されているのだろうか。ただ人間的には「はっきり有利」とのことで高橋九段も同じ見解であったと思う。そしてその後はあっという間に勝勢に持って行った。まだ若手時代の藤井四段、高橋九段相手にこの勝ち方はお見事。自戦解説は「大いに自信になった」で締められていた。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第42期王座戦二次予選(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)