1991/12/21 藤井猛四段—森雞二九段(早指し選手権戦)

感想

終盤の魔術師、森雞二九段との一局。藤井四段は晩学の棋士として知られているが、森九段はさらに将棋を覚えた時期が遅い。それでも二人ともタイトルを獲得する棋士になった。45歳と21歳、世代は離れているが、異色の棋士同士の戦いということで楽しみなカードだ。

本局は相振り飛車になった。藤井四段が☗6六歩と止めて向かい飛車に、森九段が☖3五歩として三間飛車にした。そして囲いは相金無双となった。懐かしさを感じる。相振り飛車と言えばこの形が最も多かった。

森九段は早々に2歩交換に成功した一方、藤井四段は☗8四歩と飛車先の歩を切ることができなかった。序盤、森九段の工夫が見られたと思う。森九段は手に入れた2歩で☖3一角(58手目)から9筋の端攻めを狙った。ここで藤井四段が大きく動いていく。藤井四段は銀桂交換を果たすが森九段が誘ったところのように思えた。後手が桂馬を持つと☖4六歩が一層厳しい。それを防ぐためか☗6五銀(71手目)と打ったが、☖8二桂とがっちり受けられた。通常、壁になりやすい桂馬で打たせ得のような気はするが、前に進もうと思えばどうしても7四の地点(☖8二桂)を攻めることになる。結局7四の地点で再度銀桂交換となり、駒の損得がなくなった。そこで手番は後手。この手番で森九段は☖4六歩から先手玉のこびんに歩の拠点を築く成果を挙げた。

☖4六歩の拠点によって、藤井四段は銀などを渡さずに攻める制約ができた。後手がやや有利に見える。そこで95手目☗7六桂~☗8三歩~☗8九飛はなるほど。次の☗8四飛が厳しそうだ。桂馬と飛車だけで攻めの形になった。しかし森九段は堂々と☖7四玉!☗8四飛車をまったく恐れなかった。この後手の玉頭には先手の馬も参戦できたが、結局ここで攻め切ることはできなかった。森九段が見事な凌ぎを見せた。結局☗7四桂は取られることになった。後手が優勢になったと思う。

玉頭の攻防で後手に飛車が渡った。☖8九飛、この一手だけで先手は相当厳しい。☖4六歩と組み合わせが最悪だ。☖9九飛成と香車を取られて☖4七香となると完全に終わってしまう。そのため藤井四段は☗7七角から香車を取られないようにした。香車さえ拾われなければ後手の攻め駒は無い。それならばと森九段は入玉する形を作っていった。163手目の局面は先手が手段を尽くして☖4六歩の拠点を除去できたところで、角と銀桂の2枚替えで先手が駒得ではあるものの、空中の後手玉がまったく寄らない。

総手数188手、藤井四段がほとんど攻めている将棋だったが、森九段が玄妙に受け続け、ついに余した将棋だった。頑強に受け続けたというより、懐の深い受けだった。『藤井猛全局集 竜王獲得まで』を時系列に並べていくと早指し選手権戦で勝ち星を重ねていったのが印象的であったが、ここで止まった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

ずっと森九段が良いと思っていたが違った。☖4六歩と拠点を作られたところはむしろ先手が良かったようだ。先手が悪いと思っていたから玉頭から勝負を賭けに行ったと思ったが、先手が良いのであれば、実際は本譜の攻めで攻め切れるはずだ、という攻めだったのかもしれない。☖9六歩(138手目)と飛車を取られてからは後手が良くなっていそうだが、それでも藤井四段も攻めながらも粘りある手を指し続けていたことが分かる。ただ後手玉が寄せにくい形になっているというのが、森九段の中盤以降の作りの上手さであったと思う。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第25回早指し選手権戦本戦(主催:テレビ東京)