1995/3/7 藤井猛五段—桜井昇七段(順位戦)

感想

第53期順位戦C級1組最終局。藤井五段は9連勝、桜井七段は3勝6敗。前節は抜け番であり、他の対局の結果昇級が決まった状態で本局を迎えることになった。藤井五段は唯一の全勝だが、本局に敗れた場合2位昇級になってしまう可能性がある。

戦型は藤井五段の四間飛車に桜井七段は5筋の位を取ったが、本局は序盤に大きなポイントがあった。桜井七段は位を取った後☖4二銀~☖4四歩としたが、その瞬間5筋から動いた。☖4四歩の瞬間角道が止まり、5筋の位を狙うのに最適なタイミングになっていた。この機敏な動きで5筋の位を奪還した。先手の作戦勝ちであると思う。

5筋の位を取れなかった桜井七段、今度は玉頭の位を取りに行った。これにも藤井五段はすぐ☗4五歩と反発する。本局の藤井五段はとにかく後手の理想形を打ち砕いていく。しかしここからの手順は、後手の理想形を防ぐだけではなく、一気に優勢に持っていくものだった。☗4五歩☖同歩☗3六歩☖同歩☗5四歩!突き捨てた歩はすぐ回収できるところばかりだが、そこには触らず☗5四歩と角道を通した。なかなか理解が難しいが、本譜に答えが現れる。

57手目☗4五金!これが藤井五段の狙いだった。金を犠牲にしてでも☗1一角成と成り込んで先手優勢。先手玉のこびんが開いて気持ち悪いが、角や桂馬さえ渡さなければ問題ない。さらにこの手順は☗5八飛と回っているからこそ成立している意味もある。8筋の歩交換の☖8六同角に☗6六角と交わすだけで後手の攻めをいなせている。さらには取った香車で☗8八香の筋も生じている。見事と言う他ない。ここまで意味が分かってくると、☗5四歩の味の良さを噛みしめることになる。

最後は☗2一銀とカッコ良く決めて桜井七段の投了。この手は私もすぐ発見することができて嬉しかった。わずか67手、夕休前の快勝だった。

藤井五段はC級1組を全勝で1期抜けした。1994年度は特に対左美濃藤井システムを中心とした藤井流四間飛車が大躍進した印象で、その研究をしていく過程で藤井五段の地力も上がっていったようだった。充実の10連勝だった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

10連勝がかかる将棋であったが震えることなく、積極的に動いてリードを奪い、一気に決めた。見事な完勝譜だった。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第53期順位戦C級1組(主催:毎日新聞社、日本将棋連盟)