感想
中田功五段との対局。中田五段とは過去2戦しており、対戦成績は藤井六段の2勝(1千日手)。
戦型は藤井六段の四間飛車に中田五段の天守閣美濃。室岡六段に圧倒的な研究量を見せつけても、血気盛んな若手の試行錯誤は続き、天守閣美濃対左美濃藤井システムの戦いはまだまだ続いている。本局は藤井六段が☖6二玉型のまま駒組みを進めているのが目を引く。これは☖7一玉よりも☖8四歩を優先したい意図があるのではないか。32手目にその局面が現れた。
ここで100分もの時間を投入し、☗5七角。この角は8四の歩を狙っているが、☖7一玉型でも☖8五歩の仕掛けがある。この仕掛けは端も絡めることがあるため、☖7一玉型より☖6二玉型の方が条件が良さそうに見える。そこで中田五段は☖8五歩に☗9八玉と引いた。
仕掛けられた瞬間に引くのが柔らかく、☖7三桂が跳ねて行ける形にならない。なるほどとは思うが、☖8六歩☗同銀の瞬間は☖3三角の利きが9九まで素通りで振り飛車の駒効率が良いように見える。
ここから再度駒組みに入るが、先手が銀冠に組み替えるには☗6八金寄、☗8七銀、☗7八金上の3手かかる。その間に手を作っていきたいが、☖4六歩~☖4五歩の継ぎ歩の前に一手☖7一玉と引いたのが味わい深い。☖7一玉は☗7五歩からの玉頭攻めが見えているため戦場から遠ざかっている。この継ぎ歩は5四の銀が出ていけば破壊力のある進行だが、中田五段も☗7五歩と桂頭攻めを見せ、☖6三銀引とバックさせてから☗4五歩と手を戻した。その手の流れに乗り、藤井六段は引かされた銀を玉頭攻めに再活用した。技と技の応酬で、非常に見応えのある中盤だった。
60手目☖9六歩はいかにも急所の一手で、後手が良く見えてきた。
しかし次の☗5五歩が読みづらい一手で☖3三角の利きを緩和している。後手が良いと思ったがまだまだ難解な局面か。
81手目☗7四歩は居飛車待望の一手。この局面はむしろ先手有望だろうか。そして89手目☗7五香が厳しい。結局☖7一玉型美濃囲いを真正面から潰し、99手目☗7三銀という重しが入った。☖9三竜が粘りある手だが、竜が7三に来たところで☗8五桂~☗6五桂と竜をいじめながら寄せる展開になってしまった。先手陣は右辺が広く寄りがない。とは言え、本局の詰みは捨て駒が多く、中田五段の見事な寄せだった。
評価値
60手目☖9六歩の局面はやや後手寄り、81手目☗7四歩の局面はほぼ互角だったが、意外にも☗7四歩の瞬間にまた後手に振れた。89手目☗7五香の局面は後手陣より先手陣の方に手がつきやすく、先手が有望と思ったがむしろ最も後手に振れていた。97手目☗7四歩に☖同銀で先手に振れたが、この拠点を残すことは考えづらい。評価値の数字では1000点近く後手に振れていたが、対局者目線ではもっと難解な局面だったのではないかと思う。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第26期新人王戦本戦(主催:赤旗、日本将棋連盟)