1992/7/14 藤井猛四段—中田功五段(順位戦) ※指し直し局

感想

千日手指し直し局。21時35分対局開始。

今度こそどちらかが振ると思いきや3手目☗2六歩に☖8四歩と応じ、横歩取りとなった。お互い意地になっているような面白さがある。藤井四段の横歩取りは4月の桐山九段戦(NHK杯)以来2回目。桐山九段戦は☖3三桂型であったが本局は☖3三角型、そして相中住まいとなり全く異なる将棋になった。

じっくりしたような展開ではあるが、横歩取りはいつでも激しくなる変化を内包している。本局は藤井四段が☗8六飛とぶつけ、中田五段が☖同飛と応じて突然激しくなった。ここも「取るしかない」というような意地を感じる。お互いに飛車角を手持ちにしており、少しでも隙があれば一気に倒れてしまう形だ。

先後とも2筋が歩で乱れた。隙がありそうだが、☗2一飛は☖3一飛で受かるし、☖3八角は☗2八金で受かる。ギリギリのバランスを保っている。44手目☖4五桂は横歩取りらしい桂跳ねで、これも受け間違えると一気に持っていかれそうだ。この桂跳ねに☗3六角がテクニカルな受けだった。☗6四桂の反撃を見ている。それでも☖5七桂成と突っ込んできた。☗同銀は☖3九飛のような隙が生じるので☗同玉しかないが、先手玉は凄い形になった。これを承知で☗3六角と打っているのだから藤井四段もまたアツい。当然ながら先手玉は耐えているようで、一転☖7一金☗5八玉と自陣を整備する小休止が入った。この深夜の攻防、非常に見応えがある。

少し落ち着けば先ほど打った☗3六角が目標になりそうだ。☖2四銀は角を目標にした手だが、そこですかさず☗2一飛。ついに先手が後手玉の隙を突いた。☖4四角で受かって良そうだが、☗2二歩成~☗3四桂が痛打になっている。角を逃げると☖2四銀を取ることができる。ここで大きな駒得となり、先手が優位になったと思う。

後手は持ち駒に飛車飛車角とあるが、先手玉には相変わらず隙が無い。中田五段は☖8三歩~☖6四歩~☖6三玉と金銀のいる8筋方面に逃げ込んでチャンスを待つ方針に切り替えた。これが逆転勝ちに繋がる指し方か。先手玉が薄いので先手も慎重さを求められる。藤井四段は冷静にゆっくり☗3三角から馬を作りつつ駒を拾いに行った。そして☗8四歩から玉頭から攻め味を作り、ついには☖8二歩と壁を強要し、飛車を追いかけながら☗1八角と遠見の角が刺さった。優勢になってからも藤井四段が会心の指し回しを見せた。

その後も後手の攻めを冷静に対処し、129手で中田五段が投了した。2時10分だった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

☗2二歩成~☗3四桂の前から先手に針が振れていた。藤井四段が優位を保ったまま指し進めていたことは素晴らしいし、中田五段も一気に倒れることなく粘り強く指していたことも面白かった。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第51期順位戦C級2組(主催:毎日新聞社、日本将棋連盟)