1994/9/21 藤井猛五段—室岡克彦六段(王位戦)

感想

室岡克彦六段との戦い。室岡六段とは過去2局対戦し、藤井五段の四間飛車に居飛車穴熊、天守閣美濃をぶつけてきており、当時の最先端の将棋が指されている。佐藤康光竜王(当時)との研究パートナーであったことも有名であり、別の将棋の自戦解説では「彼らの研究を交互にぶつけられていた」とある。佐藤康光竜王との将棋はこの2か月前に指されており、やはり天守閣美濃だった。

本局も藤井五段の四間飛車に室岡六段の天守閣美濃。藤井五段の先手だったが、3手目に☗9六歩と様子を見たため後手番のような形になっている。テーマとしては郷田真隆五段-羽生善治竜王戦(1993/10/11・日本シリーズ)の仕掛けであるが、☖1五歩☗同歩を入れたのが室岡六段のさらなる工夫。

47手目、前述の郷田五段羽生竜王戦では☗3六飛であったが、藤井五段は50分考えて☗8一竜と桂馬を取った。

この時期は☗3六飛からの変化が相当掘り下げられていたはずで、1か月後には有名な☖8三金が現れる。本局☖1五歩☗同歩が入っていることによって☗3六飛と打てない変化があるのかと思ったが、分からなかった。☖1五歩にノータイムで☗同歩と取っていることもあり、この変化も研究範囲で、☗8一竜も有力な変化として研究されていたかもしれない。

室岡六段も意外だったか、42分考えて☖4六香。これも☖9九馬からの狙い筋の一つ。そこでワンテンポ遅れて☗3六飛とした。なるほど、金は取られるが、この順では☖3四歩☗同歩☖同銀☗3五歩☖同銀☗同飛☖3四歩☗3六飛☖3五香という手が無くなっている。☗3五歩の位に飛車がついて、後手玉への玉頭攻めのプレッシャーが大きい。

しかし☖5五馬~☖4六金から飛車を取られる形でもある。飛車がいなくなると玉頭攻めの威力も弱まり、先手玉も薄く見える。55手目☗2二歩は決断の一手だった。87分の考慮。

59手目、飛車を取られた後の☗2一歩成の局面は、後手玉の危険度が分からず一瞬後手の方が良いように見えた。しかし☗2四歩と打ってみると意外と危ない。となれば☖3六歩のような余裕のある手は指せない。そこで☖2八角と次の☖3九飛を狙って直接迫ってきたが、☗5九玉の早逃げから☗4九香が絶妙の受け。これで左辺に逃げ込む先手玉を捕らえられなくなった上、☖4六馬取りにもなっている。

68手目までの手順で、☗8一竜や☗3七桂は消されたが、3七には銀が残った。そして69手目、いよいよ☗2四歩が入った。これで寄っているようだ。見事に詰ましあげた。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

具体的な好手があれば形勢が入れ替わるような、読みが必要な局面が続いたため形勢判断はよく分からなかったが、難解ながら概ね先手やや良しで推移していたようだ。☗2二歩からは数値上もほぼ互角。絶妙な受けと思った☗4九香で一瞬後手に振れた。馬取りにかかわらず☖3八飛成という手があったようだ。将棋としては馬を逃げた☖8二馬が疑問で大勢決したようだが、☖8二馬は☗4九香と打ったからこそ生じた手であり、たった数手に多くのドラマが詰まっていた。改めて棋譜ページを見ると、この☗4九香の局面が局面図に採用されていた。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第36期王位戦予選(主催:新聞三社連合、日本将棋連盟)