1995/1/6 森下卓八段—藤井猛五段(勝抜戦)

感想

1995年に入った。2年ぶりのオールスター勝抜戦は森下卓八段と戦う。

森下八段とは2戦目で、前局は藤井五段が三間飛車を採用したが、本局は四間飛車に構えた。対して森下八段は居飛車穴熊に組みに行った。

22手目☖4五歩。☗5七銀と上がっていないのは森下八段の工夫だと思うが、それならばと角と飛車の道をいっぺんに空けた。☗9九玉と潜る直前であるのも良気分が良い。果たして、角交換型の持久戦になった。

33手目☗7七角。手にした角を早速放った。穴熊の堅さを頼りに、単刀直入に☗3三角成からの2筋突破を目指している。藤井五段は45分の考慮で☖7四歩。持ち時間3時間の45分なので大長考と言える。熟考の末やってこいと催促した。

森下八段も気合負けなどせず☗3三角成を敢行。☗2四同飛の局面で藤井五段が指した手は☖1四角。なるほど☗5八金が浮いているので☖4六歩が厳しい。そこで森下八段は☗3六歩と中合いをしてから☗6八金寄とした。角は成られるが次に厳しい手がある訳ではない。ただ、☗2三飛成に☖2五桂がギリギリの凌ぎ。この一連のやり取りで、藤井五段は駒得しながら馬を作り、桂馬を捌いた。見事な対応だった。ただし、先手の飛車は捌けたが後手の飛車は捌けておらず、良い勝負だと思う。

51手目の局面、と金は作られたが☖1四角でと金を除去できる。森下八段は打った角に取るべく☗1六歩からプレッシャーを掛けるが、これをあっさり見捨てて桂香を拾った。これで駒割りは角と銀桂香の3枚替え。後手の飛車は相変わらず使えないが、先手も☗3三銀☗3四竜が良い形ではなく、後手が良くなっていると思う。

藤井五段は手にした桂香で端を狙う。実に合理的で、居飛車穴熊がみるみる崩壊していく。快調に攻めているようでも、ちょっと不安なのは☖6二飛で逆方向に壁ができていること。森下八段はそれを突くように、崩れながらも香車と竜で9筋に力を集め、反発力のある受けを繰り出してくる。

118手目の局面は馬が消され、既に先手玉に寄りがなくなっている。いつの間にか先手が良くなっていそうだ。どこで逆転したか分からない。

127手目☗5三成銀のような妙手が出てはつらい。☖5三同金は☗7四桂の王手飛車。この銀は遊んでいたはずの☗3三銀だ。133手目からは即詰み。森下八段の寄せは的確だった。

本局は負けてしまったが、しかし☗3三角成から2筋突破してくる指し方に対する藤井五段の対応は見事で、その後桂香を拾って端攻めをする構想も勉強になった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

序盤は互角。藤井五段の対応は的確だった。角を見捨てて桂香を拾ったところはやはり後手に振れていた。その後、86手目☖8四馬の局面で既に難しくなっている。壁形が祟ってしまっており、森下八段の反発力のある受けが奏功していたということだろうか。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第16回オールスター勝抜戦(主催:日刊ゲンダイ)