1994/6/3 藤井猛五段—富岡英作七段(王座戦)

感想

先月に続いて富岡英作七段戦。リベンジなるか。

藤井五段先手で☗7六歩☖8四歩☗5六歩という意表の出だし。

富岡七段も予想外だったか、ここで19分も使って☖5四歩とした。藤井五段にしては珍しいオープニングで、戦型は☗5七銀型の三間飛車に後手持久戦模様の対抗形となった。

しかし驚きはそれだけではなかった。23手目から☗3五歩☖同歩☗3八飛!と仕掛けていった。

藤井五段の☗5七銀型の駒組みは、富岡七段の居飛車穴熊を警戒して早く動く形を目指していた。富岡七段は☖3三銀~☖4二金上と上部に厚い構えにし、ひとまず一方的に玉を固められることを阻止することができた。

ちょうど最近、NHK杯の☗久保利明九段-☖藤井聡太NHK杯選手権者の将棋で久保九段が類似の仕掛けを見せており、解説が藤井九段だった。その時はしきりに☗2八玉型の脆さを指摘していた。

それよりも20年近く前の将棋だが、やはり藤井五段は振り飛車穴熊を目指した。美濃では戦場に近すぎるために穴熊に組む方が良い理屈があるのは間違いない。しかし☗7八金型でもありそこまで固くできる訳ではない。それに戦いが起こった後の局面であるためどこまで固めることを許してくれるか。それでも☗2八玉型は良いということだと思う。とにかく序盤から藤井五段が挑戦的な構想を示し続けている。

49手目☗6七金は8筋の守りを放棄した手で、緊急手段的な雰囲気を感じる。角銀を捌き合った局面は後手玉もまとまっており、3筋の位も奪還されそう。さらに☖5六銀からのすり込みがそれほど厳しいと言うことで、ここでは後手が良くなっているだろうか。

54手目☖6六歩☗5七金☖6七歩成は不思議な手順。☗同金なら☖6五歩を除去した形だが、このメリットがどう表れてくるのかはよく分からなかった。しかし藤井五段はこの歩成を取らずに☗4六金と玉頭に送った。ただ☖5七と~☖4七と とひたひたと飛車を攻められる形になってしまった。

69手目☗7一角は飛車を逃げない勝負手だが、逃げたところで☖3八歩くらいでも負けそうで、もはや仕方のない局面になっているかもしれない。そして飛車銀両取りの☗7一角は手順に☖5五馬と受けられてしまった。

攻め駒が少なく、後手玉はまったく寄らない形。☗4四角成としても☗1一馬とできない(いつでも☖2二銀と閉じ込められてしまう)のもつらい。勝負どころを作ることも難しそうで将棋としては大勢が決したと思う。それでもこの後藤井五段は50手近く指した。藤井五段が若者らしいガッツを見せていた。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

49手目☗6七金の局面はそれほど後手に振れておらず意外だった。74手目☖5五馬の局面は大差だと思ったが-1000点程度で、もしかしたら当然頑張る局面だったかもしれない。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第42期王座戦本戦(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)