1995/1/10 室岡克彦六段—藤井猛五段(順位戦)

感想

8連勝中の藤井五段と5勝2敗の室岡克彦六段の戦い。室岡六段とはこの頃必ず四間飛車対天守閣美濃という戦型になっており、お互い「こちらが良いはず」という信念をもって研究をぶつけあっている。その結果、対局が行われるたびに藤井五段が新構想、新手が披露し、四間飛車の定跡が進化していっていることが目に見えて分かる。まさにこの戦型の歴史が作られていく途上を見ていることになる。

藤井五段が良い成果を出しているとはいえ、この戦型のテーマはいくつもある。14手目☖9四歩は「穴熊ですか?」という打診だったと思うが、すぐ☗9六歩と返し「今日も天守閣美濃をやりましょう」と言っている。特段の駆け引き無しに32手目☖4三銀まで対左美濃藤井システムの基本図ができあがった。そこで室岡六段の指し手は☗5七角。本局のテーマ図が決まった。戦型に対し研究に研究を重ね、それでも簡単に結論を出さず、次々と新しいことを試みている。室岡六段のプライドが垣間見えるようで非常に興奮する。

これまでの戦いにおいても、既に☖7一玉型+☖8四歩の玉頭攻めが厳しいことは分かってきた。この☗5七角は☗3六歩より先に上がることで☖8四歩と突けないようにしている。しかしこの手にも藤井五段の新構想があった。36手目☖6三銀引もまた藤井新手。

この手も対左美濃藤井システムにおいて重要な変化であり、『藤井システム』(毎日コミュニケーションズ)、『居飛車穴熊撃破 ―必殺藤井システム―』(日本将棋連盟)、『四間飛車の急所 第1巻』(浅川書房)で手順が詳説されている。

ここで46分も時間を使っており、やはり室岡五段の驚きが感じられる。薄くなった角頭を狙って☗2四歩から仕掛けてくるが、44手目☖5四飛まで行くと☖6三銀引の狙いが明らかになる。この浮き飛車が安定しているのだ。そして角の利きをキープしたまま48手目☖7五歩が強烈。☖7六歩に☗同玉なら☖5六飛~☖2六飛がある。そもそも浮き飛車が安定しているという発想が柔軟だが、安定している上に玉頭攻めや飛車を中央から捌くプランまで生まれているのが驚愕。これを創り上げた藤井五段は天才だ。

そして52手目☖8四歩。本局のテーマは☖8四歩を突かせない構想だったはずだが、特に被害のない状態で☖8四歩と突くことに成功した。次の☖8五歩が猛烈に厳しい。

53手目☗1五角は☗3三歩成に☖2四飛と素抜かれないこと、☗2八飛と回ることという狙いがあり、一石二鳥の手で通常厳しいが、既に玉頭に火が上がろうとしているところなのでもはや☗2八飛と回る余裕はない。

61手目の局面は桂損しながら竜を作られたが玉形の違いが歴然。先手玉は手を入れてもすぐ追撃がくるのでどこまでいっても安全にならない。

終盤は振り飛車優勢なまま推移したと思うが、角2枚の攻めでありどう決めていくのかは難しかった。しかし藤井五段が示した手は思わずなるほどと唸る手ばかり。特に70手目☖3九角成からの順は、桂香を拾うより先に角2枚で厳しい攻撃を見せることで、先手に駒を使わせて悠々と☖2八歩から桂香を拾って勝ちに行くもので、とても指せる気がしない。この間室岡六段から歩を使った小技が出たが、手堅く陣形を纏めながら対応し、どうしても2枚飛車が厳しい攻めにならない。厳しい攻めになる駒補充も見込めない。

そして86手目☖7四銀の歩頭銀が決め手。玉頭から押しつぶせる形になり先手玉に一方的に次々と攻めが刺さる形になった100手目に室岡六段が投了。

本局は自戦解説がないが、やはり対左美濃藤井システムの進化において重要な対局だった。残念なことに室岡六段との対戦機会はしばらくなくなる。

会心の将棋で順位戦9連勝を達成。しかしまだこの時点では昇級が決まっていなかった。次の抜け番で、そこで昇級候補だった郷田真隆五段が負けたため、藤井五段の昇級が決まった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

藤井五段が新手提示から着実にリードを広げていっており、玉頭戦の強さを物語っている。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
  2. 藤井猛著『藤井システム』(毎日コミュニケーションズ)
  3. 藤井猛著『居飛車穴熊撃破 ―必殺藤井システム―』(日本将棋連盟)
  4. 藤井猛著『四間飛車の急所 第1巻』(浅川書房)

棋戦情報

第53期順位戦C級1組(主催:毎日新聞社、日本将棋連盟)