1992/2/24 田辺一郎六段—藤井猛四段(NHK杯)

感想

NHK杯予選が始まった。同日に3戦行われ、3連勝すればNHK杯本戦に出場できる。

初戦は田辺一郎六段との一戦。田辺六段は不思議な立ち上がりだったが、結局☗4五歩早仕掛けのような形に合流した。早仕掛けの定跡は『四間飛車の急所 第3巻』に詳しい。本譜は早仕掛けの形とは言え、☗4七銀と☗6八金を入れた形で、仕掛けが遅い印象がある。仕掛けを敢えて遅らせ振り飛車の最善形を崩そうとしているような狙いがあるだろうか。

藤井四段の対応は☖2四同角の形。定跡手ではあるが、私自身は☖3三銀の扱い自信が持てずほとんど指したことが無い。ただ、☗6八金を直射しており、この形においては相性の良さを感じる。単に☗3八飛として☗2五桂と仕掛けると☖4四歩の合わせの後に☖4六桂のカウンターがあるため、☗2九飛~☗3九飛とせず☗2五桂とした。『四間飛車の急所 第3巻』があると少しだけでも手の意図が分かって嬉しい。カウンターを警戒し、間合いを図りながら仕掛けてきている印象がある。それは後の☗4八金~☗5八金左にも感じられる。

☗5八金左は☖6四桂を先受けしつつ、☖2四角の直射を避けたものであるが、それでも☖6四桂と打った。☗7七角に☖8五桂で桂馬が躍動するが、じっと☗7七歩と歩の餌食になって忙しい。藤井四段は飛車を切って、桂馬が活きているうちに☗6八角成を目指して4筋の金銀の壁を崩しにかかったが、銀を打ち合い千日手模様になった。

形勢判断は難しいが、振り飛車からすれば飛車を切った以上攻め切れないのであれば千日手はやむを得ないように見える。数回の繰り返しの後、田辺六段から手を変えた。田辺六段は先手が良いと思っているようだ。手を止められない藤井四段は強手を連発。結局☖7六の桂馬は取られたが、☖2四角はそのまま、☖4七にと金を作ることができた。先手が良いかもしれないが勝負形だ。

そこで☗4一飛(95手目)は罪深い一手だったように見える。

と金に当たってはいるが☖5七と と摺り入ることができ、と金で守りの金を剥がせた上に馬ができた。また、☖5二銀と先手で囲いを強化することができた。ここで大きく先手に振れたのではないか。

終盤はいつの間にか速度計算のしやすい分かりやすい形になっていた。金銀4枚の鉄壁の美濃囲いが2枚飛車を寄せ付けず、薄い先手玉を着実に寄せていった。藤井四段が逆転して勝った将棋だったと思う。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

千日手模様のところは先手良し。しかし藤井四段の強手が通っており、その後ぐんぐん後手に振れていっている。ポイントになったと思った☗4一飛(95手目)のところは既に後手が良かった。逆転は逆転だが全然ポイントが掴めていなかった。そしてその後もそんなに簡単ではなかったようだ。117手目☗6四歩からは一直線で後手の勝ち筋に入ったが、☗4六角☖5五角を入れてから☗6四歩を入れるような手段もあったようだ。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第42回NHK杯争奪戦予選(主催:NHK、日本将棋連盟)