1995/1/27 富岡英作七段—藤井猛五段(竜王戦)

感想

富岡英作七段との戦い。過去2連敗しており、今度こそというところ。

戦型は藤井五段の四間飛車に富岡七段の居飛車穴熊。富岡七段が端歩を突き返しているのが珍しく、序盤からお互いに潤沢に時間を使っていく。早く動いていく順があるか、じっくり組み合った後どのような形が想定され、それが良いのか悪いのか。端歩ひとつだけとっても、微妙な形の違いがまったく異なる将棋を生む。

本譜、41手目☗7八飛に☖2二飛と反発。☗2八飛と戻らざるを得ず、☗7五歩からの一歩交換をやすやすと許さない。46手目☖4二飛と戻り、藤井五段は千日手を含みにした。富岡七段は当然千日手にはせず、☗2六角☖4一飛を入れてから☗7八飛と回った。ここでも☖4一飛が出た。これなら☖2二飛がない。

51手目から先手はついに7筋の一歩交換を果たすが、56手目☖8五歩は小野修一七段戦(1994/10/18・王位戦)でも見られた狙い。

☗7八飛の形は8七の地点が弱点と見ている。小野七段戦に比べて振り飛車の手が進んでおり、この☖8五歩が早めに入った印象だ。概ね振り飛車不満の無い序盤の進行だったのではないか。

58手目☖1二香は深謀遠慮の一手で難しいが、先手の最善形を崩したい意図があるのではないかと思った。先手は瞬間的に良い形で、より固い形に組み替えるにしても数手かかる。また、3筋からの攻めも☖4三銀がいるため上手く行きそうにない。藤井五段は59手目☗7七金を見てさっと☖5二銀と引き仕掛けを誘い、そして富岡七段は堂々と☗3五歩と突いて仕掛けていった。振り飛車としては先手がやや崩れた形で戦いになったこと、居飛車はそれでも固さに不満無しとして戦いを起こしたこと。両者の主張がぶつかり合っている。

68手目ノータイムで☖2四同歩だったが、☖3四飛と走るのはどういう変化になっただろうか。☗3六歩はそこで☖2四歩と手を戻して後手が得をする。☗3八飛が手強いか。通常先手の方が動きづらい形だが、☖5三角は☗同角成☖3八飛成☗5二馬があるため、この形においては振り飛車の飛車の方が素抜かれそうだ。

65手目☗3四歩~71手目☗6八銀までの手順は、一歩を犠牲に銀を引いた形であり、富岡七段が手順を尽くしながら中盤をこなしている。そして75手目☗3三歩と垂らされて居飛車穴熊が良さそうに見えてきた。次の☗3八飛が受けづらい。そこで☖6五歩は攻め合いにスイッチしたことを表している。

富岡七段は角銀交換の駒損でも飛車を成り込む怒涛の攻めを見せる。飛車の成り合いは穴熊の方が良い。そして手にした銀で振り飛車の銀冠をはがし、竜を近づける。富岡七段が着実にポイントを挙げていく。そして97手目☗9五歩。穴熊の方から端を攻めてきたので決めに出ている感もある。99手目☗9四歩は☖同香なら☗9三歩と垂らし、☖同玉なら☗5三角~☗7一角がある。しかし100手目☖7五角打が攻防に利いた手。角金交換となったが、☖9四香と玉頭を補強でき、さらに110手目☖8一金で後手玉は相当寄らない形になった。

攻め駒は少ないがここでは相当難解になっているのではないかと思った。

132手目☖9七歩。藤井五段はここで20分も費やし、詰めろで歩を垂らした。この手は早いうちにどこかで入ると思った。あまりに遅いと入らなくなる可能性がある。☗9七同桂となれば7七の地点が薄くなるので損がない。しかし本譜はこの9七の桂が牙をむく。136手目☖6二香~☖3五角は飛車取りと後手への寄せを目指す手だが、139手目☗7三竜があった。☖同金で大駒がすべて後手に渡るが、☗8五桂が継続手。☖9七歩を利かせたばかりにこの手が生じている。しかし後手玉も広い。藤井五段も承知でこの局面にしたかもしれない。もはやどちらが勝ちなのかまったく分からない。153手目☗6四歩☖5二玉☗6三歩成は一歩を犠牲にした時間稼ぎか誤算があったか。富岡七段も111手目から一分将棋であり極限状態に違いない。

157手目からは包むように寄せてきた。受け切れそうでもあり、受け間違えればすぐ負けになる危うさがある。藤井五段の160手目☖8四飛は攻防に利いておりいかにも上手い手。しかし☗7四銀打!があった。

飛車を取られてしまい、☖7七歩成に☗8三飛から詰んでしまった。熱戦。しかし最後は富岡七段の執念が実ったような将棋だった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

序中盤はやはり富岡七段が上手く進めていたようで、徐々に先手のリードが広がっていた。しかし☖8一金と銀冠を補強してから流れが変わり、後手に振れていく。この辺り、悪いながらの粘り方は勉強になる。132手目☖9七歩から再び先手に振れる。やはり☗8五桂と跳ばれるのは痛かったか。竜を追った後でも良かったかもしれない。143手目は☗7三桂成があっさりした攻め方で、☗9三金から追えば攻め駒が盤上に残って先手が良かったようだ。本譜は再び後手に振れていく。166手目は☖7七歩成として詰まされてしまったが、☖7二銀ともう一手埋めておけば後手が良かったようだ。並べていてもどちらが勝つか分からない将棋だったが、実際形勢が二転三転する熱戦だった。

なお、序盤一瞬後手に振れているのは67手目☗2四歩に☖3四飛と走ってどうかというものだった。☗3八飛には☖2四角!と出て、☗7一角成☖同金☗3四飛☖5七角成☗3二飛成☖6二金引☗2一竜。この局面は振り飛車が自信を持てる局面ではないように思えるが、やや後手が良いと言う。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第8期竜王戦ランキング戦4組(主催:読売新聞社、日本将棋連盟)