感想
小林宏六段との戦い。過去の対戦成績は1勝1敗。
まず10手目、藤井六段が☖7二玉と寄ったのが珍しい。この頃は☖7二銀~☖7一玉のルートが定番で、☖7二玉なら振り飛車穴熊にすることが濃厚だと思われた。小林六段も☖8二玉型を見てか19手目☗8六歩と天守閣美濃へ組みに行く。そこで藤井六段は☖7二銀と美濃を選択した。後手番で☖8二玉型で天守閣美濃を迎え撃つのは、☖7一玉型が発達してからはほぼ見かけることはなかった。41手目☗6六歩まで行くと、中井広恵女流名人戦(1992/7/21・王座戦)と同一局面になった。
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1992年でさえ☖7一玉型からの変化だ。☖8二玉型、さらに☖2二飛の利かされ。後手が悪い訳ではないと思うが、既に古さを感じる局面になった。しかしこれでもし良い局面にすることができれば、それはそれで意義はある。
45手目☗3八飛で中井広恵女流名人戦と離れた。☖4二角と引いてから☗3八飛なので攻める目標がなさそうで不思議な感覚の一手。☗4六歩からの反発も☗4六同角と取るのではなく☗4八飛。この辺りの先手の意図は難しいが、☖6四角や☖2四歩の反撃を警戒しながら歩を切り少しずつポイントを稼いでいるだろうか。
しかし藤井六段は果敢に攻めて行く。58手目☖8五歩を入れてから☖6四角。
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仮に☖6五桂と跳ねられれば、次の☖5六歩と合わせて厳しい。それにもかかわらず小林六段は☗6五歩と桂馬を呼び込んだ。☖同桂に☗8六銀とそっぽにいったのが上手いかわし方で、☖8六歩の叩きも防ぎながら☗8八角ののぞきを見ている。もしかしたら☖8五歩は指し過ぎになっていたかもしれない。
75手目☗6七飛の局面は後手が桂香得のはずだが振り飛車が良い気がしない。
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玉形に差があること、左辺の桂香が働いていないこと、☖4四銀が負担になっていることが要因か。小林六段は端を絡め、香車を使わせてから☗6五金~☗4四角を敢行。先手が攻める展開になった。こうなるとやはり玉形差が大きく、振り飛車が苦しい。86手目☖3三金は勝負手だが、☖8五歩の位を土台にどんどん攻めてくる。☖3三金は質駒としてベストタイミングで取られ、決め手☗8八銀が放たれた。☖5五角は攻防手だが、小林六段は自玉に手を入れることなく綺麗に寄せ切った。
評価値
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思いのほか形勢の針が先手に振れるタイミングは遅かった。終盤一度ヨリが戻っているのは103手目☗6三歩成に☖7二銀と頑張る手があったため。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第9期竜王戦ランキング戦4組(主催:読売新聞社、日本将棋連盟)