1994/5/24 島朗八段—藤井猛五段(IBM杯)

感想

順位戦昇級者同士のトーナメントであるIBM杯。本局はB1→A級昇級者の島朗八段との対戦。

戦型は藤井猛五段の四間飛車。16手目☖6四歩が早く、対持久戦を主に想定していることが窺える。この歩を見てか、島八段は19手目☗6八銀とし、左銀急戦を志向した。24手目は☗5七銀左急戦対☖6四歩型美濃囲いの基本図となった。定跡形なのでこの局面だけ局面図を載せる。

四間飛車はこの☖6四歩型美濃囲いが最も美しいと思う。一方で☖6四角の筋が無いので反撃筋が少なく、☖5四歩型に比べて捌くのが難しい。きれいに反撃するよりも、美濃囲いの堅さを活かして力で押していくような戦い方が求められる。

この形は『四間飛車の急所 第2巻』に詳細な解説が載っている。ここから☗3五歩が難敵で島八段もそう指した。対して藤井五段は☖4三金。カウンターを狙うのではなく、金の力で攻めを受け止めようとする指し方だ。この指し方は『四間飛車の急所 第2巻』には載っていない。

30手目☖3五歩として3筋を抑える。☗4六銀が気になるが、☖4五歩で3五の地点で駒交換した後☖4四角の筋がある。やはり金の力は強く、先手から一気に攻めて行く筋はなくなった。ここでまた序盤に戻り、第二次駒組合戦が始まる。島八段は☗6六歩~☗6七金右として6筋を手厚くし、藤井五段はその間に木村美濃に組み替えこちらも少し上部に厚い構えにした。気になるのは5三の地点で、☗3一角等飛車を攻められながら☗5三角成りとされるのは避けたい。

島八段は右銀を使って改めて3筋攻略を図る。しかし藤井五段の金の使い方が柔らかく、島八段は右銀を前に出していけない。46手目の局面は一歩得で後手十分の局面だと思う。A級昇級棋士に堂々たる序盤だった。

そしてここからも見どころ満載。50手目☖4九角は藤井将棋でよく出てくるような角打ち。続いて☖3八歩が継続手で、☖3九歩成~☖3八と が厳しいし、このままでも飛車の横利きが止まっている効果がある。☖4九角~☖3八歩は見事なリードの広げ方だと思う。

と金作りを止められない島八段は攻めて行くしかない。☗3五歩~☗3一角は☖3五金を浮き駒にしつつ後手陣の弱点を突いた攻めであるが、☖4五飛がぴったりの一手。続いて☖4六歩が「敵の打ちたいところに打て」かつと金の種で厳しい。やむなく☗3五馬と馬金交換して急場をしのぐが、☗4六銀に☖2五飛が凄い!☗2六歩で飛車が死にそうだが、☖8五飛☗7七桂には☖6七角成!がある。☗同金は☖8九角、☗同玉は☖8七飛成がある。この変化も☖3八歩がよく利いている。結局飛車交換するしかないが、後手は見事に捌いた格好だ。

飛車交換後☗6一飛の打ち込み。後手玉は☗5三金~☗6三金が厳しそうだが、角を渡しても詰めろにならず、この間に先手玉攻略を目指す。まずは☖3九飛。☖6七角成~☖8九龍があるため厳しい手になっている。島八段は☗6五歩と逃げ道をあけながら☗6四歩を見せる。藤井五段はそれでも☖6七角成とし、☗同金☖6九角☗7七玉☖5八角成と指した。流れは後手が勝ちを決めているはずだが次の手が見えなかった。

74手目☖7八金!格好良い決め手を用意していた。竜と馬の分厚い寄せ。☗6五歩~☗6四歩の間に、上部に逃さず寄せ切った。

序盤の対応や☖4九角からの一連の手順は既にA級の将棋を堪能した気分だった。藤井五段の強い将棋でお気に入りの将棋。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

これぞ藤井将棋。ひとたびリードを奪うと中盤から一気に突き放した。快勝譜。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第6回IBM杯戦(主催:毎日新聞社、サンデー毎日、日本将棋連盟)