1991/11/1 藤井猛四段—佐藤義則七段(棋聖戦)

感想

過密と言えるような対局スケジュールをこなしてきた藤井四段だったが、ここで少し間が空いた。本来10月16日に山口千嶺七段戦(棋聖戦)があるはずだったが、不戦勝で対局が無くなっている。

こういう時、棋士のファンにとっては「ラッキー」とは微塵も思わず、棋譜が残らなかったことをただ残念に思うのみだ。もちろん不戦敗になった棋士を責める意図は全くない。対局や棋譜というものはスポンサーにとっても、将棋ファンにとっても基本的な財産のはずだ。対局や棋譜があって初めて世界が続いていく。『藤井猛全局集 竜王獲得まで』を見て、棋譜が残っていることの嬉しさを噛みしめている。

本局は佐藤義則七段との戦い。戦型は藤井四段の四間飛車に佐藤七段の5筋位取りだ。

序盤、まず藤井四段の左銀の活用がギリギリまで保留されているのに目が行く。この半年でも先手四間飛車の組み方に変化が見えて面白い。対する佐藤七段の5筋位取りは現代ではほとんど見かけない。こういう戦型の実戦譜が見られるだけでも『藤井猛全局集 竜王獲得まで』には価値がある。

☗4八飛(29手目)の反発は『四間飛車を指しこなす本 第3巻』に掲載されている定跡と同一。

藤井四段がその後選択した進行は☗4五歩~☗6五歩だった。この形は振り飛車が大技を狙いながら捌く味があり、力は必要だが、振り飛車の楽しさを味わえるところがある。それに対して佐藤七段は☖3三銀~☖3一角と、先手の捌きを防ぎながら逆に☖8六歩からの捌きを見せた。しかし☗5五歩で銀ばさみであり、すぐの仕掛けは難しい。と思ったら☖8六歩と仕掛けた。

☖3五歩では不満があったか。☖8六歩は勝負手気味であり、もしかしたらもう後手苦戦なのかもしれない。これで先手の銀得が確定することになり、こうなると後手が暴れてくることが予想されるので、あとは藤井四段がどう抑えるかというのが焦点になる。

佐藤七段は垂れ歩の圧力と共にギリギリまで竜を活用したが、☗5六銀(59手目)が垂れ歩を除去しながら竜を消す味良い一着で決め手だったと思う。投了図(75手目)は歩と飛車の利きだけで竜を外壁に追いやり、完全に指し切らせたことが分かる。藤井四段の受けは完璧であった。

貴重な5筋位取りの実戦譜でもあり、藤井四段の短手数快勝譜。素晴らしい藤井将棋。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

綺麗な右肩上がり。☖8六歩(38手目)の局面は既に若干先手に振れている。代わりに☖3五歩は☗5六銀から捌いて、☖8六歩が入らない(☗5四歩~☗3三角成がある)とのことだ。ここにも気持ち良い技がかかる変化があった。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第60期棋聖戦一次予選(主催:産経新聞社、日本将棋連盟)