感想
佐藤康光前竜王を破った次に森内俊之八段と戦う。濃密な山だ。森内八段との過去の対戦成績は1勝3敗。
戦型は藤井六段の四間飛車に森内八段の天守閣美濃。先手なので☗2八玉が入っているが、藤井六段はそれでも十分に戦えると見ている。
30手目☖7二飛に☗4七金は藤井六段の対左美濃藤井システムによって編み出された定跡手である。ただ後手番では☖7一玉型を活かして☖8二飛と回る味があるが、先手番では☗2八玉と上がっているのでその筋は無い。先手番でこの袖飛車急戦をどう迎え撃つかが本局のテーマだ。
39手目☗5六歩。この手によって角を引いて玉頭を目指す狙いが見えてきた。森内八段は☗5六歩に☖7六歩。この手は☗8八角と引かれると打った歩が助からないので通常打たないが、☖6五歩が継続手。この歩は取れないが、取らなければ少し余裕がある。
ここで藤井六段が☗2五歩~☗4五歩とカウンターを放っていく。☗5六歩からの継続手だ。☗2四歩から角を引いた手が王手になる。森内八段は☖3三角と☗2四歩を受けるが、☗2五桂が角取りの桂跳ねになる。いかにも誘われているようだが、藤井六段は55分の読みを入れて勇躍☗2五桂と跳ねた。
☗2五桂に角を引いて跳ね得したようだが、この桂を無条件で取られてはならないので攻め続ける必要がある。狙いの☗2四歩~☗7九角が実現したが、☖3五歩が手筋で☗同角は☖3四玉とかわされてしまう。☖3五歩に☗4六金が手厚い攻めで、これが序盤の☗4七金を活かした手になっている。攻めが繋がり形勢は藤井六段が良さそうだ。
森内八段も56手目☖5五歩と飛車の横利きを通す。☗4四歩と飛車の横利きを止めながら攻めることを予想したが、藤井六段の指し手は☗1五歩。この手は攻めにおいて最も理想的な一手だが、☖2四歩で桂馬を取られてしまう。森内八段は☖2四歩ではなく☖5六歩として☖5七歩成と☖5五角を見せたが、藤井六段は強気に対応し、なるほど☖2四歩の桂取りには☗1四歩と取り込んで、☖2五歩には☗2四歩が厳しい。☖3三玉には☗5五角、☖1二玉には☗1三歩成☖同桂☗1四歩。後手は桂馬を取り切れない。
そこで62手目☖5七歩成と利かそうとするが、ここで☗7六飛が決め手。飛車の横利きを消す手段にこんな気持ち良い手があるとは。飛車を横に逃げるが☗7二飛成~☗7四歩で飛車が敵陣に居る状態で横利きを止めた。57手目単に飛車の横利きを止めるより、5二の金を質駒にしている分もよっぽど得をしている。最後は☗5二竜とその金を取った図が投了図となった。
藤井六段が自分の土俵と言える将棋を指して難敵に快勝。ますます藤井六段に天守閣美濃を指す人が減ると思わせる内容だった。今年度はIBM杯でも佐藤前竜王と森内八段を破っており、藤井六段の充実ぶりが窺える。
評価値
☖3三角☗2五桂が入ってからは先手の将棋。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第14回全日本プロトーナメント(主催:朝日新聞社)