1992/3/9 中村修七段—藤井猛四段(棋王戦)

感想

中村修七段との初対局。ファンサービスにも熱心だが、今なお盤上に闘志を燃やし続けるアツい棋士でもある。心底カッコいいと思える棋士で、好きな棋士の一人。

本局は自戦解説編掲載局。戦型は藤井四段の四間飛車に中村七段の居飛車穴熊となった。序盤は☗9九香の瞬間に☖4五歩と突くのが藤井四段の作戦だった。

☗6六歩がよくある対応だが、中村七段は☗3三角成と角交換した。私は☗9六歩と突く穴熊に対してはこの☖4五歩と突く指し方を好んでいるが、☗3三角成とされたことはほとんどない。本局の進行が楽しみになった。

角交換でなければ☖3五歩~☖4四飛~☖3四飛という立石流のような形を狙うのが普通だが、藤井四段は角交換でも☖3五歩と突いた。さらに高美濃にも組んだ。これもあまり見ない組み合わせだ。対して中村七段は、☗2六飛と浮いてから☗6八銀と引き、☗6七銀型に組み替えた。☗5八の金をなかなか動かさないなと思ったらこの組み換えを狙っていた。中村七段が作戦勝ちしたのではないかと思った。

しかし藤井四段も得意の銀冠まで組み替え、勝負はこれから。敢えて2筋の歩を切らせ、それを逆用していく。80手目☖4五桂まで飛べたところはこれ以上ない躍動感があるように見えた。しかし、冷静に☗3六歩と打たれると銀は後退するしかなく、☖4六の垂れ歩も取られてしまった。自戦解説では気持ちよく見えた☖3三桂~☖4五桂が疑問とあり、意外だったが、結果を見るとなるほどと思う。

じりじりとはしていられない。残った一歩で、狙い筋だった端攻めを、角の素抜きの筋を絡めて敢行した。97手目、先手は☗7三角成~☗9七銀とした方が駒損しないが、本譜は手番を重視したと思った。☗8八角が☖6六歩を防ぎながら飛車に当てて絶品の味。そして飛車の逃げ場所も難しい。☖5一飛は驚きの逃げ場所だった。☗3三角成が飛車に当たる。そこで☖8五桂!が藤井四段渾身の勝負。☗5一馬とされて本当に良いのか。本譜は☗8六銀打だった。ここは藤井四段の勝負が通ったように見えた。自戦解説でもこの辺りは詳しく解説されている。☖8五桂では☖5五角から千日手にする筋があったようで、☖8五桂は打開したニュアンスだった。理由が「若いのに体力がなかった」からというのが面白い。そして実際に☗5一馬と取るべきだったようだ。

形勢はそれでも難しそうだが、120手目の☖5五角は、何気ない手ながら本局で一番感動したところだった。

☗4六角☖同角☗同歩で0手で☗4六歩と突けた格好となり、並べたときは単に後手が忙しくなったように見えた。ここからは藤井四段が☖5七角!のような武骨な手やガジガジ流の攻めを繰り出し、これは藤井四段勝勢となったかというところで、☗3五角という詰めろが飛んできた。この時、☗4六歩が邪魔をして自陣に利いていない!☖5五角からのやりとりはこんな意味も含まれていた。数十手後に謎が解けるような感動を味わった。

こうして攻めを繋げながら的確に寄せに向かった。その寄せの中で、☖5一飛という気持ちの良い手が出た。自陣の受けに利いていた飛車だが、最後の最後に寄せに働いた。

本局は藤井四段の勝負勝負といく指し回しと中村七段の柔軟な指し回しが対照的で、二人の個性が全面に出た将棋で非常に面白かった。中盤、藤井四段の勝負手が通ったところからは、細やかな工夫も組み合わさって藤井四段が押し気味に進めていった格好だったと思う。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

自戦解説編の解説があるのであまり評価値を見ても仕方ない。102手目☖8五桂や132手目☖5七角は藤井四段の勝負手というところだが、一瞬先手に振れても直後に後手に振れている。藤井四段が気合を通したポイントがいくつかあるということだと思う。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第18期棋王戦(主催:共同通信社と観戦記掲載の21新聞社、日本将棋連盟)