感想
佐藤康光前竜王、森内俊之八段を破っての深浦康市五段戦。濃密なトーナメントだ。深浦五段との過去の対戦成績は2勝2敗。
本局は自戦解説掲載局。対居飛車穴熊藤井システム登場直前で自戦解説掲載局が多いのが嬉しい。
自戦解説によると深浦五段は奨励会時代左美濃を得意としていたようだが、藤井六段との過去の将棋は居飛車穴熊が主体。いち早く流行を取り入れていたことが分かる。藤井六段としては対居飛車穴熊藤井システム研究中の時期であり、この将棋も戦型選択に苦慮したようだ。結局相穴熊を選んだ。
23手目☗5六銀。昔も今も居飛車の角道を止める重要性は変わらない。対する☖4四銀はどの形においても見ない訳ではないが比較的解説が少なく、難度が高く感じる。本譜は後手が☖4四銀~☖5五歩と模様を張り、先手は手に乗って☗5六銀~☗4七銀と固め、お互いに主張のある形になった。
33手目☗9六歩は深謀遠慮の一手。この図が途中図に載っているので特別な意図のある手だろうと思ったが、自戦解説に奨励会時代に記録係を務めた☗近藤正和二段-☖庄司俊之三段(若駒戦)の将棋を参考にしたと書いてあって驚いた。あらゆる将棋をその身に吸収している。
本譜はそのイメージを持つ藤井六段と手探りの深浦五段の差が出てしまう。39手目☗6四歩~☗8六歩が機敏な仕掛け。一見遠い8筋の逆襲だが受けづらい。深浦五段は先ほど☖5一金寄と寄せた金を☖6二金~☖7二金として受けた。手損であり玉から離れる金でもあり、悔しいに違いないが、指しづらい手でも歯を食いしばって指すのが深浦五段。とは言え間違いなくこの仕掛けで藤井六段は優位に立った。
57手目☗6五歩。どんどん駒を捌こうとしている。☖5四飛と☖7二金の位置関係が角に弱い形をしているのも狙い目だ。そこで一度☖7五歩とするのがなるほど。飛車の横利きを通して☖7四飛や☖8四飛を用意した。ただしいよいよ先手の飛車も捌け、67手目☗7五飛は後手歩切れで金取りが受けにくい。☖7三桂、そして続く☗6六角☖6五角とど根性の受けが続く。☖6五角は先手陣も睨んでおり油断できない。
79手目☗2二角成~☗2六桂とラッシュ。これで玉が露出した。先手陣は鉄壁。先手が勝ちそうだが一気に決まる訳ではない。☖7二金を☖6四まで使われたことや手駒の少なさは気になるところで、もう一山あることを感じさせる。最も難しかったのは87手目☗3四桂。単に☗6四銀成では☖4七桂不成が厳しい。☗3四桂と詰めろで入るのが肝要で、それで☗6四銀不成とすれば後の☗7四竜が厳しくなっている。見事な組み合わせだった。
最後の寄せは金銀の打ち替えなど難解なパズルのような寄せが必要であったが、こういうのは藤井六段が得意とするところであり、本局も見事に解いた。
苦肉の策で選択した相穴熊だったが、本局によって「居飛車良し」が定説の相穴熊も見直され研究が進んだという。
評価値
右肩上がり。☗2二角成と切ってからも難解ではあったが強手を織り交ぜ見事に着地を決めた。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第14回全日本プロトーナメント(主催:朝日新聞社)