1992/4/10 豊川孝弘四段—藤井猛四段(棋王戦)

感想

1992年度の始まり。豊川孝弘四段との戦い。今ではオヤジギャグを放ちまくる棋士が、私にとっては今も昔もファイターのイメージだ。

本局は藤井四段の四間飛車に豊川四段の矢倉引き角となった。矢倉引き角作戦は『四間飛車を指しこなす本 第1巻』でその定跡を勉強したことがあるものの、アマチュア同士の将棋でも出現頻度は稀で、プロの将棋では今ではまったく見ない。実際に指して見ても、美濃囲いの桂馬の活用がそのまま矢倉の急所にヒットするので指しやすい印象がある。

しかし本局の将棋は中盤以降居飛車が良くなったように見えた。銀桂交換を果たしたものの、先手は矢倉の銀桂を手持ちにし、後手は歩切れで持ち駒が銀のみ。63手目☗6五歩は逆に急所の一手を突かれた感じがした。藤井四段の指し手は自然に見えただけに不思議な感じだった。

そこからも豊川四段の指し回しは絶品だった。藤井四段目線で並べているので、なかなかつらいと思うほど。豊川四段は徐々に徐々に力をためていった。端攻めも一気に攻め立てるのではなく、じっと詰めるだけにして、☗9六桂と据えて8筋逆襲の足掛かりを作った。そして☗3九飛~☗8九飛と8筋逆襲に飛車を参加させ、☗1一の香を取って8筋に据えた。攻めてもらえればもらった駒で反撃することも考えらえるのが将棋だが、豊川四段はずっと力をためるような手を続けたため、藤井四段は手駒を増やすことができなかった。本局で印象に残ったのは豊川四段のそういった慎重な指し回しであった。途中で☗4九歩のような小技を利かせているのもうまい。

そうして最後に決めに行ったときは、9筋に据えた桂馬、8筋に構えた香車と飛車、これらをすべて切り飛ばし、後手玉を即詰みに討ち取った。途中、☖8四歩と中合いして飛車を成り込ませないテクニックが参考になったが、代わりに桂馬が跳んできたのには絶望感があった。豊川四段が優勢な将棋の理想的な勝ち方を見せた。藤井ファンとしては無念の将棋だったが、豊川四段の指し回しが勉強になった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

中盤は思ったより先手に振れている訳では無かった。むしろ後手に振れているところもあって、藤井四段の☖7三銀打といった辛抱が実っていたと言える。その後もそんなに大きく先手に振れていた訳では無かったが、やはり豊川四段が上手く進め、先手が勝ちやすい将棋になっていたとおもう。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第18期棋王戦(主催:共同通信社と観戦記掲載の21新聞社、日本将棋連盟)