1995/9/1 藤井猛六段—櫛田陽一五段(棋聖戦)

感想

櫛田陽一五段との対戦。

振り飛車党同士の対戦だが、これまですべて対抗形となっている。どちらかというと藤井六段が居飛車を持つことが多い。本局も櫛田五段が四間飛車、藤井六段居飛車の対抗形となった。

藤井六段は居飛車穴熊を目指す駒組みであったが、櫛田五段が早々に☖4五歩と突く積極策を見せ、☗7八銀と左美濃に組んだ。そして☗8七銀と銀冠に組み替えようかというところ、それは許さんと☖6五歩と開戦してきた。勢いよく☖6五桂と跳ねる。一見すぐ死んでしまう桂馬に見えるが、この開戦は☗3六歩と突いていたことも影響していた雰囲気もあり、空いた7三の地点に角と据え飛車のコビンも狙ってきた。攻めが細いと思いきや複数の攻め筋があったのだ。

☖7三角☗1八飛☖2四歩。

櫛田五段は短慮で決断よく指し続ける。この☖2四歩で中盤のテーマがハッキリした。後手は☖2五歩~☖2六歩~☖2七歩成としてくる他ない。その間に先手がどうカウンターするか。藤井六段は☗6六歩から桂馬を取り切り、☗5七銀~☗7八飛と攻め駒を7筋に集中させた。後手としては☗8七銀☗6九金という中途半端な形で戦いにしたことが主張であったが、☗7八飛はこの不安定な形を最大限に活かしているとも言える。お互いの主張が見え面白い中盤だ。

櫛田五段はさらに☖2二飛として☖3八と~☖2九飛成を狙う。☖2九飛成となれば浮いた☗6九金を狙っており厳しい。櫛田五段の狙いは常にシンプルで明快だ。スピード負けしないよう藤井六段も☗7五歩~☗9五歩と戦線を拡大する。しかし櫛田五段はなんと端を受けずに☖2九飛成と成った。☗9三歩成で端を破られるが、6九金当たりの飛車成りの方が強いと言っている。ところが藤井六段は6九の金取りを受けずに☗6四歩☖同金☗7五銀と出た。先ほど端を破らせた櫛田五段に驚いたが、6九の金を取らせる藤井六段にはそれ以上に驚いた。言われてみれば☖6九竜~☖6七竜と金2枚取らせても詰めろになっていない。藤井六段は相手のやりたいことをやらせても戦える順を見出していた。

☗7五銀に櫛田五段はたまらず☖6二玉と早逃げするが、☗5五桂の妙手が出た。

馬の利きを遮断している。そして☖同金☗同歩~☗6四銀となり、後手の馬を5五に生還させないまま後手玉を寄せていく。強気の手順の中にも、丁寧な読みに裏付けされたきめ細やかさがある。

この将棋は最終盤にも驚きの手順が現れる。

図の☗7二とがそれで、☖8九竜を許しても勝ち。藤井六段の見切りが素晴らしい。

本局は櫛田五段の狙いをすべてやらせ、その上で勝ち切る強くて見事な藤井将棋だった。

評価値

評価値(YaneuraOu(tournament128-cl4) NNUE 20240528/tanuki-wcsc34/1手15秒)

終盤になっても評価値上は難解な将棋だったようだ。藤井六段の方が良さそうと思った局面でも後手に振れていた盤面もあった。しかし79手目☗7二とからはぐんぐん先手に振れていった。強い踏み込みで一気に勝ちに持っていった。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第67期棋聖戦二次予選(主催:産経新聞社、日本将棋連盟)