1993/6/22 藤井猛四段—飯野健二六段(順位戦)

感想

第52期順位戦開幕。初戦は飯野健二六段と。藤井四段は8位という好位置でスタート。藤井四段の昇級にかける想いも想像して並べていきたい。

戦型は藤井四段の四間飛車に飯野六段の玉頭位取り。飯野六段とはつい2か月前にも対局があったが、その時も四間飛車対玉頭位取りだった。玉頭位取りが飯野六段の得意戦法だったのだろうか。

飯野六段の組み方が面白く、☖4四銀~☖3一角を入れてから位を確保しに行った。5筋交換を防ぎながら☗8八飛を強要している。対する藤井四段は、☗8八飛は強要されたが淡々と銀冠に組んだ。途中千日手模様の手順があったが後手から打開。もしかしたら藤井四段としては若干不満な展開だったかもしれない。

59手目まで行けば振り飛車も全く不満の無い形。ただし後手もこれ以上ない陣形。ここから☗9八香☖9二香という手順が入り、また千日手模様になるかと思ったが、藤井四段も飯野六段もちょっとずつ手を変えていく。そして70手目台、いよいよ玉頭で戦いが起こった。

飯野六段は7筋と2筋を絡めて捌きにかかった。手筋の☗7八飛では☖4八角成~☖2六馬があるので通常の受けは利かない。そこであっさり角交換して☗5七角と据えたのはいかにもギリギリの受け。怖いが、手番を握りながら藤井四段は玉頭の位を奪還した。

しかしやはり手を戻さざるを得ず、90手目☖5六飛から飯野六段の猛攻を浴びることになった。96手目☖7八歩は素人目に非常に厳しい手に映った。☖7八の歩はと金に昇格し、角桂を召し取り、さらに飛車取りにもなっている。

101手目、その飛車取りを手抜き、☗9二飛成と香車を取った手が本局のハイライト。

後手陣は金銀4枚の銀冠で非常に堅いが玉頭の位を活かして上と横から攻略しようとしている。この☗9二飛成は、中盤の入り口で☗9八香☖9二香という交換があったからこそ生じた手。少なくとも飯野六段の後悔を誘う展開であることは間違いない。先手陣は脆い形になっているが手番を握り続けることができれば大丈夫。藤井四段が攻め切れるかどうか、面白い終盤に入った。

103手目☗2四香。銀冠の堅陣をハンマーで叩き壊す手が入った。飯野六段は駒を投入して頑強な抵抗を見せるが、藤井四段のガジガジ攻めが完全に筋に入っている。

113手で飯野六段が投了。☗2四香からわずか10手で終わってしまった。順位戦としては白星スタートを切ることができた。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

どうも中盤、後手から捌きに来た後は後手に分がある戦いだったようだ。ぐっと下がっているのは☗9二飛成~☗2四香と藤井四段が渾身の攻めを放ったところ。私はどちらが良いかよく分からなかったが、☗9二飛成~☗2四香は後手としても一番嫌な展開のはず。悪いと見ていた藤井四段の勝負手だったかもしれないが、心理的な面においても最善の手だったと思う。そして飯野六段が駒を投入して抵抗したところで先手に振れた。☗2四香を取っていれば後手が良かったらしいが、駒を投入して受けた手の方が受けが無くなるというのも悲劇的だ。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
  2. 藤井猛著『四間飛車の急所 第1巻』(浅川書房)

棋戦情報

第52期順位戦C級2組(主催:毎日新聞社、日本将棋連盟)