1995/9/12 大野八一雄六段—藤井猛六段(王位戦)

感想

大野八一雄六段との一戦。大野六段とは過去1回対局があり、大野六段の勝ち。大野六段の絶品の玉頭戦が印象に残っている。

大野六段は居飛車も振り飛車も指すが、3手目☗4八銀は藤井六段が振り飛車と決め打ちするような手だ。これに反応したか、藤井六段は8分の考慮で☖8四歩とした。相居飛車になるか。しかししばらく進み、大野六段は17手目☗8八飛とした。珍しい陽動振り飛車だ。序盤から駆け引きがあったが、藤井六段居飛車の対抗形となった。

大野六段が☗4七銀と決めて飛車を振ったことで、振り飛車の囲いの形が限られている。藤井六段は☖3三玉!から天守閣美濃に組んだ。

☖1六歩の端歩に挨拶せず☗2六歩を優先したことから、変則的な陣形ではあるが☗2五歩からの玉頭攻めに期待していることが分かる。☗7八飛~☗7九飛~☗2九飛の夢のような展開を描きたくなるが、その間に後手から攻められる展開になりそうだ。藤井六段も玉頭から攻められにくいと思って天守閣美濃にしたのではないかと思う。

31手目☗4五歩の位取りにすぐ☖4四歩から反発して☖3三銀引と収めたのは後手がややポイントを挙げたように見える。それでも4六の地点を空けたことが振り飛車の主張であり、大野六段は角を転換して空いた4六に持ってきた。これに対し☖6四歩と受けたのがなかなかやりづらい手。普通☗6五歩から攻めが続いてしまう。しかし☖6二飛と回って6四で精算し、6七の銀や6九の金の浮き駒を狙っている。☖6四歩はなるほどという受けだった。そこで大野六段も☗5八銀引と一手で後手の狙いを封じながら玉を固める味の良い手を見せた。振り飛車は薄い玉形だったが、ここまでくると金銀の連係がよく取れた立派な陣形になっている。見応えのある応酬だった。

6筋に加え、5筋、2筋と次々と歩がぶつかり本格的な戦いが始まった。特に☗2五歩は後手玉の一番の弱点であり気をつかう。ただ、まだ角と桂だけの軽い攻めであり一気に潰される順は無い。☗5五角に藤井六段はグイッと☖5四金と押し上げ角を圧迫していく。その瞬間の☗2四歩は鋭い手で、☖2四同銀は☗1一角成、☖2四同玉は☗4六角と王手で角を逃げることができる。そのため☗2四歩には☖1四玉!とさらに危険な場所に逃げ込むしかないが、後方支援部隊がおらずこの位置が案外安全地帯になっている。

そして藤井六段は4筋の位を奪還し、6筋の位を安定させ、ついに☖2四銀と嫌みな歩を取り切った。この☖2四銀の局面が途中図として載っており、後手が盤石の態勢になったことが窺える。

ここから十数手進んだところで大野六段が投了。良くなってからの藤井六段の指し回しは実に丁寧なもので、方針が一貫していた。形の良い先手陣は好形ながら低いままで、大駒が使えない展開になると後手陣への攻めがまったくないと言える状況だった。参考になる勝ち方だった。

評価値

評価値(YaneuraOu(tournament128-cl4) NNUE 20240528/tanuki-wcsc34/1手15秒)

数値的にはずっと難解だったようだが、藤井六段の方が主導権を握っている将棋だったと思う。先手の攻めを封じ、丁寧に丁寧に指してリードをひろげていった様子が分かる。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第37期王位戦予選(主催:新聞三社連合、日本将棋連盟)