感想
野田敬三四段との戦い。何気ないことだが、ここで初めて対局場所に関西将棋会館が出てくる。
本局は藤井四段の先手四間飛車に野田四段の居飛車穴熊。早めに☗3七桂と跳ね、☖4四歩とさせたことで後手から急戦という選択肢を奪った。そして銀冠を早めに構築したのがやや印象的だ。早めに銀冠に組めば隙が少ない。そして現代の藤井将棋ではほぼ見られない☗6六銀型となった。
☗6六の銀は前に進むのではなく、☗5七銀~☗4八銀と固める構想だった。続いて☗8八角~☗7七桂~☗9七角という順。右辺も左辺も藤井猛四段—泉正樹六段戦(1991/5/30・早指し選手権戦)で現れた形だ。泉六段戦では☗8五桂が実現して先手がポイントを挙げたが、本譜は野田四段が☖9三桂と対応したためまったく別の手順を辿ることになる。
全ての将棋の前例は分からないが、こうして藤井先生の将棋だけでも前例から何か引っ張ることができると嬉しいものがある。
本譜の野田四段の対応は☗9七角を捌かせないような手順だったが、75手目までくると結局角の道が開いた。この辺りの藤井四段の手順は定跡のような完璧さがある。
せっかく角道が通ったので、いつか☗3一角成とすると思ったが、本局は結局角を切ることは無かった。☗2四歩~☗1六桂と据えたが☖2六歩の反撃があるので☗2四桂とも跳ねない。お互い堅い玉のまま、長い間ずっと細かい手を積み重ね、高い緊張感の中緩やかに終盤に向かっていった。形勢は難解なままだと思う。
ところが110手目付近から急速に終局に向かう。☖5五銀は角の利きが逸れるとタダで取ることができるので☗2四歩が非常に厳しくなっている。後手とすれば待望の☖2六歩の反撃も、先手玉は寄らず後手玉への寄せの方が早い。☖5五銀のところはもしかしたら野田四段に誤算があったかもしれないが、それにしても藤井四段が鋭すぎる寄せを決めた終盤だった。
評価値
泉六段戦でも見られた左辺の攻防は先手が成功しているようだ。しかしその後は意外なほど後手に振れていた。☗2五歩(109手目)のところは2000点近い。2000点差の形勢判断もできていないのは残念だ。しかし、☖5五銀で一気に互角に戻っており、何か事件を感じ取れたのは嬉しい。数字の上でも藤井四段が一気に決めたことが分かる。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
- 小倉久史・杉本昌隆・藤井猛『振り飛車党宣言!③居飛車穴熊対策編』(毎日コミュニケーションズ)
棋戦情報
第8回天王戦四段戦(主催:十社)