1991/9/17 植山悦行五段—藤井猛四段(順位戦)

感想

引き続き順位戦。植山悦行五段(1勝2敗)と藤井四段(2勝1敗)の戦い。

藤井四段は四間飛車に構えた。ここで初めて、☖3二銀~☖4二飛ではなく、単に☖4二飛が登場する。それに対して植山五段は☗5七銀左急戦に構えた。

☗5七銀左急戦ではあるが、どの仕掛けでやってくるのか分からないうちに早々に☖3二金(20手目)と上がったのが珍しい。さらに木村美濃に組もうとした。☖3二飛という反発が無いので植山五段は3筋から仕掛けたが、藤井四段は☗3五同飛に☖3三金~☖3二飛と重厚な厚みを築こうとした。カウンターで捌きに行くのではなく、抑え込むような将棋だ。昭和の将棋はあまり詳しくないが、大山将棋の系譜だろうか。これを指しこなすのは難しい。藤井四段は40手目にして4時間30分以上費やした。

抑え込むような将棋と思ったが、植山五段が焦点の歩等のテクニックを使って捌きに来たところ、藤井四段も金銀交換に応じ、☖2四角(48手目)とさわやかに捌き返した。捌き合った50手目の局面は手番を握る先手が若干良いのではないかと思うが、☖2四角が☗6八金を睨んでいるのが藤井四段の主張だと思った。☗6九金型では選べない変化のはずだ。

手番の植山五段は飛車を打ち込める唯一の場所☗6一に飛車を打ち込んだ。この飛車に活躍されるとつらいが、ここから藤井四段の受け方が凄まじかった。☖5二銀~☖4一銀右!

なんと木村美濃の銀を使って強引に飛車を閉じ込めた。いかにも脆い壁だが、これを崩される前に先手玉を攻略できると言っている。また☗4四角にも注意を払う必要があるが、それも大丈夫ということだ。

植山五段はいったん桂馬を補充してから☗4四角と出たが、すかさず☖4七歩から反撃し、みるみるうちに先手陣は崩壊した。☗4四角は怖い手だが、先手が自陣に手を掛ける必要があるうちは怖くない。攻めるは守るなり。最後、植山五段は勝負手を連発してきたが、藤井四段は時間がないはずなのに確かに全く終盤を間違える気配がない。そして冷静に先手玉を仕留めた。

本局は藤井四段の名局。形にとらわれない受けの手を繰り出し、1手差を完璧に読み切って勝利を収めた。お気に入りの一局。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.1/1手15秒)

捌き合ったところは数値上若干先手良しだが、☗6一飛(51手目)の瞬間互角に戻っている。☖5二銀~☖4一銀右という驚愕の受けは成立しているのだ。☗6一飛は誘いの罠だった。☗6一飛と打てないのであれば実戦的には相当難しいように思う。☗4四角(59手目)から後手に振れた。☗2二歩ではなく単に☗4四角と出るとどうなるかは気になった。☖4七歩(60手目)のところは残り20分しかないが、一気に勝ちまで持って行った。素晴らしい藤井将棋。

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
  2. 小倉久史・杉本昌隆・藤井猛『振り飛車党宣言!①新感覚の四間飛車』(毎日コミュニケーションズ)

棋戦情報

第50期順位戦C級2組(主催:毎日新聞社、日本将棋連盟)