1991/9/3 藤井猛四段—中田宏樹五段(順位戦)

感想

前節で痛い逆転負けを喫し、連敗を避けたい順位戦。1勝1敗同士の中田宏樹五段との戦い。中田五段とは2011年第70期B級1組順位戦の藤井システム復活の将棋もあって、印象的な対局相手の一人だ。年齢差はあまり感じていなかったが、藤井四段より6歳年上で、四段昇段も6年早い。中田五段はこの年に谷川浩司王位へのタイトル挑戦を決める。

本局は『藤井猛全局集 竜王獲得まで』自戦解説編掲載局で藤井九段による解説がある。

藤井四段の三間飛車に中田五段の天守閣美濃。時系列順に並べていくと天守閣美濃の割合が大きい。天守閣美濃が流行っていたことがよく分かる。

自戦解説編によると☗5六歩を突かず☗6七銀としたのが工夫とある。こういうのは解説のありなしでまったく印象が変わってくる。藤井四段の工夫が分かるのは嬉しい。解説があるというのはありがたい。

中田五段はおそらくは銀冠に組み直すべく、玉を引いて☖3三桂と跳ねた。その瞬間に藤井四段がすかさず☗5五歩~☗6五歩と開戦した。飛車のこびんがあいているのをとがめているし、☖3三桂と跳ねられている方が攻めに弾みがつく。藤井四段らしい機敏な仕掛けだった。

さらに中田五段の☖8六歩(48手目)はどこかで飛車を走れるようにした手だと思うが、藤井四段はこれを疑問手にした。地味なところだが、まず☗7七角が☖6五桂を恐れない強い手だと思った。角を当たりから遠ざけて☗4五歩と後手陣本丸に一気に襲い掛かっていった。

歩の枚数がぴったりで、歩の攻めだけで後手陣が崩壊してしまった。さらに得た桂馬で銀桂交換を果たし銀得に。4五の利きがそれたところに取られそうだった銀を☗4五に活用し、金銀交換を果たし金得になった。☖8六歩で得た一歩から夢のような展開を実現した。決め方も☗3三桂成~☗5五角を安易に決めず、玉頭の駒を一掃しながら着実に決めた。これも激辛流と言われる決め方と思う。

藤井四段の快勝譜。何気ない☖8六歩から機敏な仕掛けで優位に立ち、焦らず決めた。藤井ファンにはたまらない将棋だった。

自戦解説編には「☖3六桂を打たせるのも、当時の私らしい指し方。『肉を切らせて骨を断つ』指し方を好んでいた」とあるが、長く藤井将棋を観ていて確かにそう感じるときがある。これは谷川浩司十七世名人の影響もあるだろうか。『最強藤井システム』では次のように書いている。

私は振り飛車党だが、最短の勝ちを目指す谷川将棋はよく並べた。私も、駆け引きより直線的に勝つことを身上とする、谷川将棋の影響を受けた一人だ。

藤井猛著『最強藤井システム』(日本将棋連盟)

谷川将棋の勝ち方と言うのは、素人の私が見ても惚れ惚れする。特に「☖7七桂」で有名な第9期竜王戦七番勝負第2局の将棋は好きで仕方がない。谷川十七世名人は明らかに将棋に速度を与えた。こうした勝ち方を目指すのも藤井将棋が魅力的なところの一つだと思う。

棋譜並べとは関係ないが、最近中田宏樹八段の休場が続き心配している。理由は分からないが、快復され、また良い棋譜を見せてくれることを願っている。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.1/1手15秒)

藤井四段が勝利まで一直線化と思いきや、自戦解説編で藤井九段が解説されているように69手目☗5七金に対して☖3二金でまだまだ難しいことが示唆されている。代わりに☗3五桂が良かったようだ。正直に言うと並べていた時はそもそも☗5七金が「大きな利かされ」だとは気づいていなかった。本譜は☖5五歩の罪が大きく一気に差が広がったようだ。ただ藤井四段が仕掛けからペースを握ったことは間違いない。角の利きと玉頭攻めの組み合わせが強烈で、受け止めるのはなかなか困難だと思う。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
    ※自戦解説編第2局掲載局

棋戦情報

第50期順位戦C級2組(主催:毎日新聞社、日本将棋連盟)