1993/12/2 藤井猛四段—森雞二九段(王座戦)

感想

森雞二九段との戦い。過去、森九段とは1991年度に対戦して敗れている。

戦型は後手早石田に藤井四段の居飛車。藤井四段は持久戦調ではなく、☗6八銀として抑え込みも狙える形にした。

早石田の定跡は不勉強だが、24手目☖3三桂は積極的な一手に見える。有名な☖1四角の手筋が来そうだ。☖3三桂の瞬間の☗3二角は☖1二角で受かる。そこで☗3八金として☗4七銀と☗2八飛に紐をつけつつ、☖1四角を見て☗3二角を決行した。☗3二角には50分の考慮時間が記録されており、その後の展開を深く読んだと思われる。

30手目☖2四飛の局面が怖い形。☗5八金はしっかりした受けのようでいて、☖4七角成☗同金☖2八飛成☗同金の局面は先手陣がバラバラでいかにも怖い。そして再度の☖2四飛が先手の歩切れを突いている。しかし藤井四段はそれを承知の上で本譜の順に進めたはず。

この局面、藤井四段が出した解は☗2七角だった。☖同飛成☗同金☖3八角と厳しい両取りが掛かるが、☗4八金とじっと引いた手がなるほど。☖2七角成☗2二馬の局面は先手陣から脅威が遠ざかっており、駒割りも飛車金交換で悪くない。

藤井四段が森九段の猛攻を見事にいなした形だ。ここは藤井四段が良くなっていると思う。

飛車2枚を手持ちにした藤井四段は2枚飛車で後手陣に襲い掛かる。森九段は☖6二金打とがっちり受けてくるが、そこが埋まったのを見て藤井四段は端に目をつけ盤上の桂馬と歩を補充していく。あとはいつ☗9五歩を突くかだが、森九段も馬をなんだかんだと活用し、☖4九まですり込ませてきた。そういう手にもしっかり☗6七銀打と埋め、当初バラバラだった先手陣が見違えるほど堅くなった。☖5五桂は☗2二馬が利いているため打てない。桂の足場に☖5四歩と突いても☗5六歩。☗9五歩という楽しみがあるため、丁寧に後手の攻め筋を消していく姿勢が良いというのがよく分かる。

歩を2枚補充したところで、67手目ついに☗9五歩。本局はこの端攻めが特に勉強になった。☗9三歩☖同香☗8六桂は持ち歩が少ない時のテクニック。☖9四桂と「敵の打ちたいところに打て」と桂馬を合わせてきたが、☗同桂☖同香となり、歩1枚で香車を9四まで吊り上げることができた。☖9三銀とがっちりとした受けにも☗7七桂☖8四歩☗9五香!☖同香☗9四歩と攻めが止まらない。

そして☗4四馬が決め手。

2筋の竜が9筋まで転回して気持ちの良いフィニッシュとなった。

対抗形の居飛車ながら、藤井四段が見事な指し回しを見せてくれた。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

ほぼ右肩上がりの快勝譜。森九段の猛攻は恐ろしかったが、藤井四段が見事にまとめ上げた。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第42期王座戦二次予選(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)