1994/8/23 藤井猛五段—宮坂幸雄八段(順位戦)

感想

第53期順位戦C級1組第3回戦。2連勝中の藤井五段と0勝1敗の宮坂八段の戦い。宮坂八段はこの時既に64歳であり、41歳差の対局である。

戦型は宮坂八段の腰掛銀右四間飛車に藤井五段の☗5七銀型四間飛車。藤井五段は右四間飛車に銀を三段目に構える形を好んでいる。

25手目☗4六歩は後手に☖4五歩の好形を許さない手だが、☖4五歩からの歩交換を与え、どのみち☖2二角の角道は通る。それでも☗4六歩と突いたのは敢えて歩交換を誘い、先手が一歩を持つ意味が大きいと言うことだろう。

29手目☗7五歩を見て、この歩交換を誘った意味が明らかになってくる。☗7八飛~☗7六飛~☗8六飛~☗7二歩が基本的な狙いだ。角道が通った後手陣は徐々に形が良くなっていくので先手は早く攻め掛かりたい。

39手目に☗8六飛まで指すことができ、一見成功形だが、藤井五段はこの☗8六飛に76分も長考している。進めてみると46手目☖7八角の局面は案外難しい。この角は桂取りの他にも☖6七角成と単刀直入に切り込む筋もある。☗8三飛成が確約されているが、先に駒損した状態で☖8二歩で追い返されるのはつまらない。藤井五段は☗8六飛の長考で相当先まで読んだ上で、先手良しの見通しを立てたはずだ。

☖7八角に対する藤井五段の答えは☗7七桂。そこで☖6七角成なら☗6六歩☖7七馬☗8三飛成☖8二歩☗8五竜☖3四銀☗7一角が一例だろうか。☗8五竜が☖4五銀に当たっているのが大きい。これは先手が良さそう。そこで宮坂八段は桂馬ではなく香車を手にするルートで角を活用した。香車であれば☗8五竜☖3四銀☗7一角には☖8三香と打てる。本譜もそのような進行になったが、飛車の取り合いにじっと馬を逃げ、桂馬を跳ねた局面は8筋に打った香車が先手玉から遠い。

藤井五段が上手い対応で優位に立った。

宮坂八段は端を絡めて攻めてくるが、藤井五段は堂々とすべて取る。☗1六の香車を銀で取られたが、後手の馬の利きを遮ってからの☗4四歩が絶品の切り返し。☗4六飛の銀の両取りが決まった。宮坂八段に指したい手を指させてその上を行くカラい指し回しを見せた。

95手目☗1七銀で後手の攻めがほぼなくなった。そして☗1三歩成~☗2六歩(飛車取り)が玉の逃げ道を封鎖しながら左辺からガジガジ攻める準備を整えた手で、そのまま順当に押し切った。111手目三段目に成った桂馬は振り飛車の左桂であり、気持ちの良い手順だった。

これで順位戦は3連勝。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

ほぼ右肩上がりの快勝譜。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第53期順位戦C級1組(主催:毎日新聞社、日本将棋連盟)