感想
棋聖戦の決勝トーナメントが始まった。早速谷川浩司九段という強敵との戦いだ。ステージが上がれば対戦相手のレベルも上がっていく。谷川九段とは過去1戦して負けている。
前局では相振り模様対抗形とやや変則的な出だしだったが、本局は四間飛車対天守閣美濃という対抗形になった。ただ、谷川九段は天守閣美濃に飛車先を突かず袖飛車~☖5五角~☖8二角と工夫を見せてきた。普段振り飛車が角道を活かして天守閣美濃退治するのに対抗しているようだ。

39手目☗8六歩の手の渡し方が上手い。

☖2三銀なら安心して☗2七銀と追随できるし、☗8五歩まで伸ばせば8筋からの攻めも見込める。☗8五歩は49手目に実現した。谷川九段は8筋を放棄した代わりに銀を前線に繰り出し、抑え込もうとしてくる。54手目☖6五歩の局面は次の☖5五歩で完全に抑え込まれてしまうようだが、☗8六角がなるほどの一着だった。

☖5五歩には☗6五銀~☗6三歩~☗6四歩とぴったり歩が足りている。そこで☖7三桂とさらに6筋に援軍を足し、☖5五歩に☗6五銀と出られないようにしたが、今度は☖8二角が使えなくなった。藤井六段が上手く進め、谷川九段が勝負手を出してきた印象だ。

この瞬間がチャンス。29分考え☗4五歩と突いた。それでも☖5五歩なら☗6四角☖同飛☗5五銀とどんどん駒が前に進んでいく。☖7五歩と角道を止めたが、じっと☗同歩が印象的な一手。

☖5五歩☗6七銀と押し返されてしまうが、それ以上に☗7四歩が厳しくなっている。
71手目☗8四歩、75手目☗8三歩成。

39手目に突いた☗8六歩がついにと金になった。夢のような展開だ。
83手目の局面は☗1八飛~☗6八飛まで玉飛金銀が一直線に並んで面白い形。

これほど駒が後退するのは通常良い展開ではないのだが、駒効率と駒得で優勢になっている。
91手目☗5三角成も露骨な一手で藤井猛六段風味がある。

飛車を手にするのが早いということだ。その後☗2四歩~☗4三とで決めた。

このと金は8七の歩だったもの。最後は3二の金を召し取って役目を終えた。遅くとも着実な手で谷川九段相手に勝ち切った。見事な将棋だった。
評価値

藤井六段作戦勝ちから落ち着いた対応で優位をひろげて勝ち切った将棋だった。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第67期棋聖戦決勝トーナメント(主催:産経新聞社、日本将棋連盟)