感想
行方尚史五段との一戦。行方五段とは過去2戦戦っており1勝1敗。
☗7六歩☖8四歩☗5六歩という出だし。中飛車かと思われたが、続いて☖5四歩と位を取らせなかったことで力戦形になった。
この将棋は藤井六段が序盤からとんでもない駒組みを見せる。13手目☗4八玉!~☗3七玉!~☗3八飛!

気心の知れた行方五段相手だからこその将棋だ。また、現在屋敷七段との全日プロ決勝五番勝負を戦っていることもあり、参考になるような将棋を指したくない思惑もあっただろうか。あまりの手順に面食らってしまうが、袖飛車に構えたと思えば行方五段の持久戦を警戒しているようにも見える。こう指されてはさすがに居飛車穴熊や天守閣美濃に組めないだろう。
そこで行方五段は☖3三銀~☖4二金上と上部に厚くし、☖3一角~☖7三桂と8筋方面からの仕掛けを狙っていく。藤井六段は初志貫徹、☗4六銀~☗6五歩~☗3五歩と3三の地点への殺到を狙っていき、お互い我が道を行っているように見えた。
ところが32手目いったん☖6四角とのぞいたのがいやらしい。

ここは端歩を突き合っていないことを活かして☗1八玉と寄って☗3七桂から桂馬を使えることが理想的ではあるがそうはならない。じっと☗4六銀と引いて☗3五飛から今度は6五の桂馬を狙った。このような形で桂馬の高跳びを狙うのは珍しい。
そこで行方五段の☖5五歩がまた良い手だった。

5五の地点は先手の方が数的優位に立っているので案外見えにくい。角が動けば☖5七桂不成があるため☗5五同銀しかないが、☖3四歩と打ってじっと☖7三角と引いた局面を見ると後手陣へ攻め入る隙が無くなった。☗5五の位置が後手陣の脅威になっていないのだ。行方五段が藤井六段の奇策を見事に受け止めた。
☖8六歩が残っているため41手目☗8八飛は悔しい一手だがこうしてチャンスを待つ。しかし陣形差で後手が優位に立っており、チャンスと見た行方五段が勝負を決めに行くかのようにどんどん攻め込んでくる。☗3三角成~☗3五歩も必死の攻勢だが☖6七角がぴったり。☗4九金が浮いているのを咎めており、☖5六角成が3四の地点に利いている。
順当に8筋から飛車を成り込まれてはさすがに成す術なし。藤井六段の奇策と行方五段の完璧と言える対応が見られて面白い将棋だった。
評価値

概ね印象通り形勢だった。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第22期棋王戦(主催:共同通信社と観戦記掲載の21新聞社、日本将棋連盟)