1991/8/26 森内俊之五段—藤井猛四段(新人王戦)

感想

勝浦九段の次に、その弟子の森内五段との対局という面白い対局順。藤井四段と森内五段は誕生日が近いが、四段昇段は森内五段の方が4年早く、藤井四段昇段時、森内五段は既に複数回棋戦優勝を重ねていた。若いころから将来を極めて有望視されていたことと思う。

その森内五段に、藤井四段は☖4二銀~☖5二飛という中飛車から、振り飛車穴熊に囲った。なんとなく勝ちに行く強い気合を感じる。森内五段も居飛車穴熊を選択し、相穴熊となった。さらに相銀冠穴熊にまで発展した。銀冠穴熊に組み替えるあたりは、手順だけ見ると地味かもしれないが、消費時間を見ると長考合戦となっており、お互い一瞬の隙を見極めているような迫力がある。

駒組みはほぼ先後同型とも言える形になった。違いは居飛車の飛車先である2筋の力関係だけ。その分だけ振り飛車が悪いという話もあるが、実戦的に勝てるかどうかは別であることを『藤井猛全局集 竜王獲得まで』は教えてくれている。

お互い飛車の位置、角の位置、そして1筋の香車の位置を細かく変え、千日手になるようにも思えたが、後手の藤井四段が仕掛けた。94手目での仕掛けである。

素人目に見て藤井四段の攻めが成功したかと思ったが森内五段の☗2七飛~☗1九香が妙防。特に☗2七飛がギリギリの受けだがこれが意外と破れない。☗4五桂で手を稼がれ、125手目の局面は先手が一手早い。しかし竜の位置関係をうまく利用して☖4二歩が地味ながら大事な一手だったか。133手目の局面は後手が一手早くなった。この辺り細かい手順を駆使して非常に見応えがある。

そうして得た手番で何を指すかが難しい。134手目☖7三銀は一種の勝負手に見えた。

☗6五桂☖6四銀と進むと0手で☗6五桂を打たせた上に手番を渡しているがとても誤算とは思えない。桂馬を質駒にした意味があるか。今度は森内五段の手番。森内五段の選択は☗7九金(137手目)の受けだった。

受けだが攻めの催促と言える。一瞬非常に薄くなるためこちらも勝負手に見える。

既に手数は140手近く、お互い持ち時間も残っていない。ここから藤井四段の猛攻が始まる。しかし森内五段の鉄板流の受けが出た。何度も出る☗8八金打という符号で穴熊は甦り、☗4六角という攻防手が存分に利いている。☖4二金(168手目)は執念の受けだったが、☗2三竜が冷静で、☖6五銀という待望の質駒を入手する手に、☗4六角で今入手した桂馬を受けに使わざるを得ないのはつらかった。

中盤の最難所、☖7三銀(134手目)の勝負手は実らず、☗7九金(137手目)の勝負手が実った、そういう勝負に見えた。形勢はほとんど分からなかったが、難しいところで細かく揺れ動いていたのではないかと思う。最後は森内五段の受けの強さを嫌でも感じさせられる一局だった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.1/1手15秒)

ずっと難しいと思っていたが、森内五段の☗2七飛~☗1九香の妙防のところは、☖1七香成ではなく☖1七角成とすれば後手が良いという。☗同香☖同香成☗2九飛に☖2七成香が軽手。確かに後手の飛車は捌け、先手のと金は残るが、先手の飛車は捌くことは難しいかもしれない。☖7三銀(134手目)や☗7九金(137手目)のところは将棋ソフト的にはただ互角ですねと言う感じで味気ない。実際勝負どころでもなんでもなかったのかもしれない。1000点を超えたのは164手目☖7八金から。ずっと難解な勝負であったことは間違いない。見応えのある将棋だった。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第22期新人王戦本戦(主催:赤旗、日本将棋連盟)