1991/12/17 藤原直哉四段—藤井猛四段(順位戦)

感想

藤原直哉四段(5勝1敗)と藤井猛四段(4勝2敗)の順位戦。星の良い者同士の対戦で、順位戦終盤に向けて重要なポイントだ。

戦型は藤井四段の後手四間飛車に藤原四段の☗5七銀左急戦となったが、藤井四段の早い☖5四歩を見て藤原四段が☗9七角と端角作戦に出た。珍しいが、本譜の形は『四間飛車の急所 第2巻』で解説されている。端角作戦について著書の中で藤井九段は次のように述べている。

 このように端角作戦は有力なのだが、必ずしもプロの実戦で数多く採用されているわけではない。端角作戦はかなり特殊な戦法で、模様をよくすることはできても、仕掛けて一気によくするという急戦の考え方とはどこか相入れないものがある。居飛車が5七銀左戦法を採用した以上、この銀を使って正面から攻めたいという思いがどこかにあるのではないか。

藤井猛著『四間飛車の急所 第2巻』(浅川書房)

本局は端角作戦の貴重な実戦譜で、定跡書や本局を並べると、確かに独特な手順が出てくるので勉強になる。本譜はすぐに☗7九角と引く形で、☖1四歩が入っていないため☖7四歩(36手目)に☗3五歩~☗2二歩が有力と言うのが『四間飛車の急所 第2巻』の教えとなっている。実戦の進行は☗3七桂で4筋から反発する形になった。☗4六歩~☗4五歩に対して☖2七歩~☖2六歩も部分的な定跡だ。

それにしても、本局の藤井四段は要所で長考するものの、それ以外の指し手が早い。想定通りに進んでいるような印象を受ける。

☖8四歩(52手目)~☖8五歩で角を追って☖8四桂と据える順は味の良さを感じるものの、すぐ☖7六桂と跳んだとしてもその後どう攻めるか難しい。☖8四桂に対して藤原四段が☗7七銀と守ったので何か怖い順があるようだ。しかし☗7七銀に対して☖6五桂が追い打ち。☗6六銀とかわしたが☖6五桂と☖7六桂をいっぺんに指せた勘定になった。この辺りで藤井四段が良さそうに見えてきた。

とは言え勝ちへの道は簡単ではないように見える。しかし藤井四段は終盤もさして時間を使わず、70手目☖4四角から一気に寄せまで持って行った。☗5五歩と止めても☖5五角の強手で守りの銀を無効化し、☖7六桂は☖6八歩~☖6九銀を実現させ、先手玉周辺を見ると小駒だけで包むように寄せた。高美濃囲いが手つかずのまま勝ち切る振り飛車の理想的な展開だが、これを実現させた藤井四段の終盤の切れ味が余りにも素晴らしかった。見事な寄せでお気に入りの将棋。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

☖6五桂~☖7六桂から一手指すごとに後手が良くなっていった形だ。藤井四段の攻めが徐々に刺さっていったことが分かる。☖8四桂に☗2六飛と走るのは、☖7六桂~☖6八歩から飛車を切って☖6九銀が厳しく攻めが続くようだ。素晴らしい。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第50期順位戦C級2組(主催:毎日新聞社、日本将棋連盟)