1992/2/5 藤井猛四段—北村昌男八段(王将戦)

感想

北村昌男八段は5月に銀河戦で敗戦した相手。銀河戦は非公式戦ながら、本局はリベンジ戦と言えるだろう。そして本局は王将戦初参加となる。

前局は藤井四段の三間飛車に北村八段の居飛車穴熊だったが、本局は藤井四段が3手目に☗2六歩として居飛車を明示した。対して北村八段はなかなか態度を示さなかったが、22手目にして飛車を振った。陽動振り飛車だった。見たこともない形で力戦的。見たこともない形にプロがどのように対応するかというのは、ファンにとって楽しみなことのひとつ。藤井四段はどのように対応するだろうか。

北村八段は特に3筋に厚みを築いた。とにかくここの主張が激しい。飛車も角も影になっている厚みだが、これが捌けると大きな攻撃となる潜在力があるのは分かる。対して藤井四段は歩をぶつけ、3筋と5筋で歩交換を果たした。こちらも着々と潜在的な攻撃力を高めていった。

北村八段が分厚い3筋まで玉を移動したところ、☗7五歩(41手目)と突いたのが素晴らしい手だった。

次に☗7六歩~☗7二歩というと金づくり(歩交換したことが利いている!)、また☗4五歩~☗8六飛という大転回を見ている。この手に対する☖4一金はそのどちらも受ける手だが、せっかくの厚みがやや弱まった。形勢はともかく、藤井四段が一本取ったと言える。

厚みが弱まっとは言え、まだまだ分厚い。それでもすかさず藤井四段は☗4五歩~☗4六歩と真正面から反発した。その結果が60手目。

後手陣上部にあった厚みは瓦解した。途中で☗2四歩を入れたのが細かい利かしで、厚みの支えになっていた飛車も当たりのきつい☖3四の地点まで浮上することになった。藤井四段はあの恐ろしい厚みを無傷で崩したことになる。先手玉は☖8八金~☖7六桂のような手が無い限り相当寄らない。しかも手番は先手。ここは先手勝勢と言えるほどまでリードを広げたのではないか。

そして☗7六角(63手目)が余りにも気持ち良いレーザービーム。

☖5三飛~☖5四歩となって、後手の飛車は隠居せざるを得なくなった。こんな形でも☗7五歩が活きた。この後先手は一方的に後手玉に近い桂香を拾い、飛車を捌く算段もついた。先手玉は寄らない。まさに圧倒。

本局、藤井四段は北村八段の力戦に対し、的確に急所とらえ短手数で圧勝した。見事な将棋だった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

20手目台から既に若干藤井四段側に振れ始め、その後も危なげなく勝ち切っている。駒がぶつかってから盛り上がる将棋だったが、序盤北村八段の力戦を迎え撃つ駒組みにも着目すべきかもしれない。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第42期王将戦一次予選(主催:毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟)