1992/3/17 藤井猛四段—木下浩一四段(順位戦)

感想

順位戦最終局。6勝3敗の藤井猛四段と4勝5敗の木下浩一四段の対戦。

藤井四段が☗7六歩~☗6六歩と振り飛車の出だしを見せたが、木下四段が4手目☖3五歩と三間飛車を見せたことで居飛車にスイッチした。藤井九段による戦型分類は「相振り模様対抗形」となっている。

藤井四段は雁木のような形にし、☗7九角~☗4六銀と出て飛車を抑え込みに行った。それに対し木下四段が☖3一銀を保留して6筋方面に手を掛け、☖6四飛と先手の角銀からの圧力から逃れた。先手玉は薄く、序盤は後手作戦勝ちに見えたが、☖3一銀は立ち遅れているとも言えるし、実戦的にはまだまだこれからといったところ。

46手目の☖6三金は印象的で、☗5四歩で飛車を取られる形だが飛車角交換は歓迎ということだ。藤井四段は取れる飛車は取らず、序盤に出た銀をじっと引いて自陣の整備を目指す。しかし木下四段は飛車角が質になっている状態でも巧みに攻めを繋げ、先手玉がなかなか安定しない。特に☗6四角に☖6六歩と角より金を取った手は良さそうな手だと思った。玉が薄く先手は駒を切った攻めを行うのが難しい。80手目の局面は銀損で、後手が良いと思う。87手目の☗4五竜は駒損を回復しながら☖6五桂を防いでおり、ギリギリバランスを保っている。しかし今度は5七にと金ができた。ただ80手目よりは希望があるように見える。何かないか。

89手目、藤井四段は持ち時間すべてをつぎ込み☗6六角~☗9五竜!を決行した。この辺りの時間の使い方に最後の勝負に掛ける藤井四段の闘志が感じられる。しかし勝ちが見つからない苦しい時間だったかもしれない。木下四段の対応は冷静で寄ることはなかった。ぴったり受けられて藤井四段の投了となった。

本局の前まで9連勝であったが、その勢いも実らず先手の順位戦で星を落とした。時間の使い方から見ても最後まで勝ちになる順を模索していたことがうかがえ、本局の敗戦はショックが大きかったのではないかと思う。1期目の順位戦は6勝4敗で終わった。藤井四段はここまで高勝率を挙げているだけにこの順位戦の成績は不本意だったと思う。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

後手が作戦勝ちと思っていたが、若干先手の方に振れていた。後手が良いと思っていた80手目付近は先手もチャンスがあったような線になっているが、☖5六銀が重く、☗8七玉と早逃げしてから☗4三竜~☗8四角~☗7四金でどうかと言っている。しかし☖6七歩成は許せないと思う。89手目☗6六角のところは数値上は難しく、木下四段に難しい局面を突き付けられた感じだ。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第50期順位戦C級2組(主催:毎日新聞社、日本将棋連盟)