1992/4/14 藤井猛四段—小野敦生五段(王将戦)

感想

小野敦生五段との一戦。小野五段はこの約1年後に31歳の若さで亡くなっている。このカードはこれが唯一の将棋だ。

戦型は藤井四段の三間飛車に小野五段の銀冠穴熊。この形は後手の角道が空いていることが脅威だが、藤井四段は☗5九角~☗3七角と展開し、☗4五歩を防ぐべく☖4四歩とさせて後手の主張を奪った。

その後先手も☗2七銀と銀冠へ。この瞬間はいつも怖い。小野五段は☖7二飛と動いてきた。☗8五桂と歩を取れるが☖7四歩☗同歩☖同銀とさらに動いてきた。☗7三歩の切り返しがありそうだが、☖7五歩が飛車に当たる。そこで☗7九飛という手は思わず「上手い!」と叫びたくなる手だった。当たりから遠ざけ、将来的に☗4九飛の転回も見据えられる手だ。

☗3八金が締まっていない形だが、後手の動きに乗じて先手の駒が捌けた格好だ。ここで☖7五歩だったが、☗8六歩で桂馬も助かった形。藤井四段が見事な対応を見せた。

そして☗3八金と締まり、4筋から仕掛け、やはり4筋に飛車を回して角を質駒にした。この辺りは既に先手がかなり良さそうに見える。藤井四段の方にだけ次々に手が生まれている。何より歩の使い方が抜群だ。まず61手目☗5五歩がこれぞ筋という手。☖6三銀と引いた手に☗7四歩が銀を元に戻す手。悠々☗5四歩と取り込んで☖5二歩と凹ませ、極めつけは☗4二歩の垂れ歩。角を質駒にした形を活かした。歩の手筋だけで差をどんどん広げていった。巧みな中盤だった。

先手玉への攻めは無く、穴熊の姿焼きのような形になった。ここからは激辛流。小野五段の望みを一つ一つ断って行った。遠巻きの攻めも許さないようだったが、当然ただ受けるのではなく、駒を使わせてその駒を使うような受け方だった。決めに行ったのは銀を質駒にしてからだった。

本局は序中盤の☗7九飛(49手目)や中盤の歩の使い方が非常に参考になった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.1/1手15秒)

感動した49手目☗7九飛と引いたところは意外にも互角の値。先手だけ一方的に桂馬が捌けているのでここでは少し先手が良いかと思っていた。玉形の悪さでその良さが相殺されているのだろうか。55手目☗4五歩と仕掛けたところでようやく先手に振れている。その後はぐんぐんと右肩上がり。快勝譜と言える。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第42期王将戦一次予選(主催:毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟)