感想
筋違い角本家、武市三郎五段との戦い。今年度は4月にも武市五段の筋違い角を受けているが、非公式戦だった。公式戦で初めて本家の筋違い角を受ける。
武市五段の筋違い角に藤井四段は5筋の位を取る形。その後武市五段、藤井四段共に左辺に位を張っていった。
42手目☖3三桂は駒組みの飽和点。
藤井四段は玉頭位取りのような形にし、1筋~5筋までの制空権を、武市五段は6~8筋の制空権を握っている。藤井四段は機を見て玉頭から攻めかかれる形であり、一見藤井四段の方が模様が良さそうに見えるが、最も攻撃力の高い8筋の飛車先は武市五段側に分があり慎重さが求められる。
44手目に藤井四段も☖5三角と角を手放した。いよいよ戦いが起こる。歩がどんどんぶつかり☖5二飛は見事なスピード感。
あっという間に既に☗8四歩が間に合う将棋ではなくなり、☗7三歩成~☗7四歩すらも間に合わない。6~8筋の位が先手の主張であったが、先手はそれらの利を活かせなくなった。
58手目に☖2五桂と跳ねいよいよ先手陣に攻めかかかる準備ができた。その次に出た60手目☖7六歩が4枚の駒が利いているところの焦点の歩で気持ちが良い。後手の弱点は☖4三金を角で食いちぎられながら攻められることであるが、この☖7六歩に☗同飛となればそれが緩和される。7筋から飛車が侵入されるリスクはあるが、それも間に合わない局面になっている。そして端攻めが敢行され、68手目☖3六歩で本丸に火が付いた感がある。藤井四段の後手陣は鉄壁のまま。素晴らしい中盤だった。
82手目の長考は寄せの有無を読んでいたものと推測するが、☗2六桂が入っているため失敗すると後手陣も危ない。長考の末藤井四段が選択したのは☗2六桂を外しながらゆっくり勝ちに行く順だった。☖5三に打った角が☖2六→☖4八→☖7五→☖6三と時計回りにぐるぐる動いて、先手の攻め駒を一掃した。
そして最後は☗6五に出てきた角を狙い、☖8一桂を☖7三に跳ね、ひたすら☖6五歩と攻めて勝ちを決めた。
激辛三兄弟と言われた理由の分かる将棋だった。
評価値
基本的に一方的な評価値であり、快勝譜と言える。藤井四段が仕掛けてからは、少なくとも先手が良くなりそうな局面はなかったと思う。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第20期棋王戦(主催:共同通信社と観戦記掲載の21新聞社、日本将棋連盟)