1994/7/5 藤井猛五段—堀口弘治六段(順位戦)

感想

第53期順位戦C級1組第2回戦。堀口六段も藤井五段も初戦に勝利した。堀口六段とは3戦目で、過去1勝1敗。

戦型は藤井五段の四間飛車に堀口六段が右四間飛車と天守閣美濃の組み合わせと少し趣向を凝らしている。藤井五段は☗6七銀型で待機する姿勢で、右四間飛車を柔らかく受けようとしている。堀口六段は早く仕掛けず、米長玉銀冠まで組み上げ相銀冠になった。藤井五段がなかなか☗4七金としないところに右四間飛車の大捌きを警戒している意図がありそうだが、具体的な手順までは分からない。

39手目から41手目まで70分、60分、71分という大長考の応酬。藤井五段の☗1八香~☗6九飛~☗4五歩は☗1九飛~☗6八角から米長玉を玉頭から攻め倒す含みがあるように感じる。堀口六段は☗4五歩が伸びすぎだと☖3三桂と☗4五歩を狙う。しかし☖2二角が使いづらくなった。藤井五段は5筋の一歩を犠牲に4筋の位を守りつつ銀ばさみを狙う。

55手目に端攻めを敢行。これは攻め倒すのではなくて香車を犠牲に一歩を得て、銀を取り切る狙い。これで銀香交換が約束されたが、堀口六段は☖3三桂を活かして玉を逃がし、☖1一香の利きを通すなどしてこの端攻めを逆用してきた。気付けば後手からの端攻めが受からない。これは見事な逆襲だった。

藤井五段は☖3三桂への桂頭攻めを狙うが、なんと堀口六段はこの歩をあっさり歩を取った。敢えて桂損するような手順だが、桂損しても☖3五歩の拠点の方が大事ということだった。すぐあとでこの拠点が活きてくる。

藤井玉は4八の地点まで逃げたが安住の地とは言えない。84手目☖3六銀と☖3五歩の拠点を活かして銀を打ち込まれた局面は先手自信ないが、後手の攻め駒は少なく、実戦的にはまだまだ難しいと思う。

95手目、藤井五段は飛車をいじめつつもたれにかかる。玉が2一にいるので側面からの攻めが有効になっている。急所を4三の地点と見た。端が詰まったのも大きい。107手目☗5五桂がシンプルながら受けづらい。堀口六段は角と桂馬を刺し違えるが、緊急手段のように見える。そもそもそれほど後手が良かったわけではないかもしれない。

113手目☗6四銀は飛車の取り合いになる変化もあり怖いが、1筋方面からの飛車打ちには☗3八歩が打てるのが大きそうだ。☖1九飛成に☗5六銀と取れば上部が開けている。持ち駒が少なく、端が狭い後手玉の方が飛車打ちに弱い。

そして117手目から☗7七桂~☗5三桂成の天使の跳躍が決まった。この間に角を犠牲にしている。

角を犠牲にしてでも桂馬を跳ねた。4三の地点が急所のため、それだけ☗5三桂成が厳しいということだ。振り飛車の左桂をこのように活用できると非常に気持ちが良い。さらに6筋の歩を突くことで隠居した☗9九角も1一の地点まで通る。ここまでくると既に先手が相当良さそうに見える。113手目☗6四銀の辺りから先手の駒が劇的に捌けた印象だ。

135手目再度の☗5五桂がとどめの一打。後手は馬を作って厚くしたが、やはり4三の地点が受からない。以下数手で藤井五段が勝利した。一見ピンチに見えたが、藤井五段の急所の見極めや駒捌きが印象に残る一局だった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

概ね印象通り、後手寄りの形勢が続いていたようだ。しかし先手玉が崩れた割にはそれほど離れていない。藤井五段が良い耐え方をしていた。ただ、左桂の三段活用ができた局面はほぼ互角で先手良しという訳でもなかった。それでも手の流れは完全に先手にあったようで一気に藤井五段が持って行った。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第53期順位戦C級1組(主催:毎日新聞社、日本将棋連盟)