1992/11/26 藤井猛四段—菊地常夫六段(竜王戦)

感想

菊地常夫六段との一戦。菊地六段はこの時まだ43歳。藤井四段は竜王戦5組での初戦となる。

戦型は向かい飛車対三間飛車の古典的相振り飛車になるかと思いきや、後手の☖8二銀が早いと見たか、藤井四段が居飛車に変化した。通常の対抗形では金無双や右矢倉は指すことはないため、後手が少し損な形になるのではということか。あるいは単純に相振り飛車を避けたかったか。

この後藤井四段は5筋の位を取りながら☗4七金とし、後手の三間飛車をなるべく捌かせず抑え込んでいく方針とした。一方菊地六段は、通常の対抗形では見かけない形であるが、自然に駒組みを進め、雁木のような形にした。菊地六段が途中☖5四歩☗同歩☖同銀☗5五歩☖6三銀と一歩持ちながら固めたのがささやかながら上手く、後で効いてくる。

駒組みが飽和状態となったが、後手は2筋から動けそうで、やや後手が作戦勝ちに見えた。そして藤井四段が☗8七玉としたのを見て、いよいよ菊地六段が動いた。

☗9九香が浮いており、藤井四段は☗8八玉と手を戻さざるを得ず、苦戦を感じた。また序盤の5筋の歩交換が効いて、5筋に繰り返し歩を垂らされたのも厳しい。

77手目☗8八玉や83手目☗2八飛成は苦戦を意識した粘りの手だが、自分から崩れない指し回しが参考になる。その上☗2八飛成は角を取るプレッシャーも与えている。90手目は後手の攻めが細くなっており、もしかしたら難しくなっているのではないかと思った。

しかしここから☗6七銀に☖9六歩が、喉に刺さった小骨のように抜けない垂れ歩だった。攻めにも受けにも気の利いた手が見えない。本当は攻めを切らすような手があれば良いが、どうにも無さそう。後手玉どころか後手陣も遠く、守り駒の補充もできそうにない。93手目☗4四歩はあまりにも後手玉に遠いと金づくりでつらい手に見えたが、☗2三角と受けの勝負手を放つ準備だった。しかし最後は結局、☖8六歩と2つ目の垂れ歩が入って攻めが切れない形になった。

この将棋は菊地六段に特別厳しい決め手が無くても藤井四段の方に良い手が無い局面が続き、仕方なく藤井四段が指した手を逆用されたような、非常に苦しい将棋という印象を持った。菊地六段の老獪さを感じた。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

菊地六段が仕掛けてからは先手に好転することは無かった。一瞬後手の攻めが細くなったように感じたところもあったが、実際にはそうでもなかったようだ。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第6期竜王戦ランキング戦5組決勝(主催:読売新聞社、日本将棋連盟)