1993/6/29 藤井猛四段—森下卓七段(王将戦)

感想

本局から二次予選で、森下卓七段との対局。森下七段は17歳でデビュー後、この時既に棋戦優勝、タイトル挑戦、B1所属と多くの実績を積んでいた。間違いなく強敵。

藤井四段の作戦は三間飛車。用意していたものだろうか。対する森下七段は天守閣美濃。天守閣美濃は一時期よく出現していたが、久々に見た気がする。藤井四段が三間飛車+☗2八玉型にしたことで組みやすいということもあっただろうか。藤井四段がどういう構想を練っているか注目だ。

森下七段が米長玉銀冠に組み替えようとしたところ、☖2三銀の瞬間に☗6五歩と突いた。

持ち時間3時間の内、41分もの時間を費やした。黙っていれば☗5五歩から捌きに行ける大きな手だ。一方で☖7三桂から歩を掠め取りやすいデメリットもあるが、☖2三銀の瞬間なので後手も戦いを起こしづらいと見ている。しかし森下七段は☖3二金と締まらず、☖7三桂と跳ねた。歩がぶつかりやすい形になり、決戦になった。

藤井四段としては後手玉の脇腹が開いたまま開戦となったので狙い通りのはず。51手目☗7五銀まで軽快に駒を捌いていき、先手好調に見えた。しかし52手目、突然☖6五桂という切り返しが飛んできた。一瞬技を掛けられたかと思ったが、57手目☗6一角が飛車金両取りになる。見応えのある中盤で、この攻防だけでも本局は並べる価値がある。

60手目の局面は激しい攻防が落ち着いたところ。どちらが良いのか。駒割りは飛車銀と角金の交換で互角だが、と金を作っている分後手に分があるか。駒の勢いは、先手は敵陣に馬を作っているが、後手も右桂を捌いている。ただ☖6二銀が遊び気味。難しいがほぼ互角かやや先手か。玉の堅さは先手に分があり、手番も先手。総じて先手がやや良いと見るべきだろうか。

しかし62手目☖2二銀が森下七段らしい受けの手。現代的な手という印象もある。☖3二金まで締まれば一気に後手玉が見えない形になり、玉の堅さの優位が消える。一方後手は小駒が多く、攻めには困りそうにない。☖2二銀を見てまったく分からなくなった。

藤井四段は2二の地点を狙っていく。☗4五歩の攻めも筋で、部分的には非常に厳しそうな攻めだが、74手目☖5四桂が痛打。☗6六角の利きが使えなくなってしまった。

92手目☖6八飛まで進むと後手が良く見えてきた。これまでの攻防で藤井四段は銀を得したが、森下七段としては遊んでいた☖6二銀を犠牲に手番を得たということだろう。薄かったはずの後手陣が余りにも固い。☗5八金打は後手陣の固さに対抗した手だが、後手の小駒による攻めが早そうだ。

そして108手目☖9三飛成が気持ち良い手だった。先手陣も堅陣のはずだが、三段目だけは素通しで、しかも歩の合駒が利かない。☗6四歩は遠巻きでもこれしかないと思わせる攻めだったが、逆用される形になってしまった。以降は緩むことなく寄せられてしまった。

藤井四段の積極的で軽快な捌きと中盤の攻防、そして☖2二銀から自陣を分厚くしていった森下七段の受けを堪能した一局だった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.1/1手15秒)

60手目の局面は先手よりの互角。あれだけ激しい捌き合いで互角と言うのが素晴らしい。しかしその後、少しずつ少しずつ後手に傾いていった。後手陣が鉄壁であり、小駒を豊富に持つ後手の方が手が分かりやすい将棋だったかもしれない。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第43期王将戦二次予選(主催:毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟)