感想
加瀬純一五段との一戦。一度、加瀬教室にお邪魔したことがあるが、穏やかな印象だった。
1992年も冬。ここまで加瀬五段は2勝4敗、藤井四段は5勝1敗。藤井四段は良いペースで来ているが、昇級のためには負けられないプレッシャーもある。
加瀬五段も振り飛車党であり、戦型が注目されたが、藤井四段の四間飛車に加瀬五段の棒銀という対抗形となった。3手目☗2六歩に19分、4手目☖4四歩に15分消費しており、振り飛車党同士の水面下の駆け引きが行われたような感じがする。
☖1二香型の四間飛車美濃囲いに棒銀と言うと、米長邦雄九段戦(1992/6/12・勝抜戦)を思い出す。加瀬五段は米長九段の仕掛けを踏襲したが、藤井四段は☖5一角ではなく☖4二角、そして☖3三桂ではなく☖4五銀と、負けた将棋とは異なる将棋にした。こうした新しい工夫を見て、時系列に並べている嬉しさを感じる。また、今となれば、☗1一角成に☖3三桂と跳ね、馬の働きを弱める方が、藤井好みなのかなという気もする。
66手目☖4五歩まで行けば攻めが分厚い後手が指しやすそうに見える。しかし少し手順を進めると角銀交換になった。
手の流れは藤井四段が自信を持って進めていそうで、振り飛車が良いのだと思うが、角銀交換で本当に良いのか。さらに76手目☖3四金まで進めると、なるほど先手の飛車を追いやりながら振り飛車の駒がどんどん前に進んでいきそうだ。結局先手は飛車を切り、駒の損得が無くなった。
89手目は形勢判断をするのにちょうど良い局面。駒の損得は無し。玉の堅さは振り飛車に分がある。駒の働きは、先手は馬は生還したが、後手の飛車も働きが悪い訳では無い。1~3筋を見ても振り飛車だけ桂馬を前に進めることができている。そして手番は後手。総じて振り飛車が良さそうに見える。藤井四段は悠々、3筋から手を作りにいった。これも☖3三桂と跳ねているから厳しい手になっている。
先手は玉のこびんが急所だが、歩がもう一枚欲しい。102手目☖2五銀は、銀を逃げながらその一歩を補充し、☖3四馬も防いだ一石三鳥の手。そっぽに行くような手で一瞬見えにくいが味の良い手だった。☗5三歩の飛車取りに構わず☖6六歩と打ったところは勝ちを確信していそうだ。確かに☗5二歩成~☗6一と とされても詰めろにならない。
中盤からうまくリードを広げた藤井四段の勝ち。これで順位戦は6勝1敗。昇級の期待が高まる。
評価値
もっと振り飛車に振れていてもおかしくないと思ったが概ねイメージ通りだった。角銀交換も成立していそうだ。本局は棒銀退治として参考になりそうな将棋ではあるが、その手順の難度は高いと感じる。藤井四段の見事な将棋だった。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第51期順位戦C級2組(主催:毎日新聞社、日本将棋連盟)