感想
1992年度最終局、佐藤義則九段との一戦。
本局は非常に珍しい藤井四段の初手☗2六歩。ひねり飛車にしたかったということかもしれない。
藤井四段は中住まいで両翼の桂馬と飛車角が存分に使える形、佐藤九段は金冠というような形。藤井四段が十分という形から、45手目☗7四歩と仕掛けた。この仕掛けで先手が相当良く見える。先手だけが一方的に捌いており、特に後手の角がなかなか使えていない。
後手懸案であった角は64手目に☖9九角成と敵陣に潜り込むことができたが、☗7七歩と蓋をし、☖7五香を防ぎながら馬を遊ばせる、いかにも藤井好みの試合運びを堪能した。
67手目☗4四桂に単に☖4三銀と逃げるとどうするのか一瞬分からなかったが、☗6二銀と武骨な手があることに気付いた。これもまた藤井四段らしい組み立て。この後藤井四段は、手に乗りながら☗4六飛~☗4二飛と振り飛車党らしい飛車の活用を実現し、あっという間に勝勢に持って行った。
初手☗2六歩の将棋でも藤井四段らしさを見せながら快勝譜。良い将棋で1992年度を締めた。
1992年度は四間飛車を完全に主戦法にした年でもあった。1992年度の公式戦成績は43戦25勝18敗4千日手(0.581)。1991年度から勝率は落ちているものの、特に後半の成績が素晴らしかった。ただ、順位戦のような大事なところで星を落とした印象だ。
評価値
思いのほか難しくなっているところもあるが、藤井四段はシンプルに進めており、対局者心理としては両者先手良しのまま進行していたのではないだろうか。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第43期王将戦一次予選(主催:毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟)