感想
NHK杯予選決勝を飯塚祐紀四段と争う。飯塚四段とは過去3戦して藤井五段の3勝負けなし。
藤井五段は四間飛車。この頃の飯塚四段は急戦のイメージがなく、本局も居飛車穴熊を目指した。43手目まで居飛車穴熊と銀冠にしっかり組み合った。43手目の局面は、先後逆にして端歩を突き合った局面にすると、富岡英作七段戦(1995/1/27・竜王戦)と同一。富岡七段はそこから☗7八飛として7筋の歩交換を目指したが、本局飯塚四段は☖6二飛として6筋からの逆襲を見せた。
対して45手目☗6六角が素早い動き。☖7三桂など来るまでに大駒を捌こうとしている。飯塚四段は角交換に応じず、☖3三金~☖3二金引まで固めた。ここまでくると先崎学五段戦(1992/2/7・棋王戦)に似た局面になった。当時の藤井五段は☖5四歩~☖5二銀~☖5三銀~☖6二銀と、穴熊に堅さ負けしない銀冠を作っていた。最近ではこの構えはほとんど見られなくなった。より積極的な☗5六銀型にし、さらに本局は☗6九飛の一手が入っている。この形を活かすべく、☗1八香~☗1九飛と端に殺到する態勢を整えた。
飯塚四段は飛車を横に動かし一人千日手状態だったが、藤井五段は75手目☗9七桂~☗6四歩~☗4五歩とついに開戦。藤井五段は先手の場合、こういう将棋で絶対に千日手にしない。
85手目☗2五桂まで、端に桂馬も参加させることができたが、居飛車も右銀を☖2四銀まで持ってくることができた。端だけでは攻め倒せない。そこで☗8五桂☖8二角を入れてから、端で入手した香車で☗8四香とB面攻撃を見せた。なるほど☗9七桂も活かしている。
しかし☖3七角成~☖3三桂打の手順が見事なカウンター。特に最後の☖3三桂打が良い手で、非常に厳しい。銀冠が薄く、☖4五桂と跳ばれると受けるのが大変そうだ。藤井五段苦しいか。飯塚四段は☖5五歩。銀桂交換さえ許さない姿勢だ。
☖5五歩を☗同銀、☖4五桂も☗3八金☖5七桂成。やりたいようにやられていそうだが、むしろ藤井五段の気合いを感じる。この局面で☗2五桂は開き直ったような手。
この局面で先手玉への厳しい手が見えないと焦りそうだ。飯塚四段の選択は☖5四歩。一気に決める手は無かった。一手の猶予を得た藤井五段はこの瞬間端からスパーク。この端攻めは攻撃力が高い。121手目☗1三歩が急所の一手。
先手先手で攻めることができている。124手目☖2二金上は仕方のない受けだが、☗4三歩☖同飛☗4四銀打と☗5五銀が生きている間に飛車道を止めることができた。☖5四歩から藤井五段が一気に逆転した。
141手目☗7四馬は攻防に利いた馬。加えて145手目☗3七金打は振り飛車魂。薄かった銀冠がまったく寄らなくなった。最後は☗7四馬を☗4一馬と活用してフィニッシュ。このNHK杯予選は全体的に角を大きく使う指し回しが印象に残った。
これで今年もNHK杯本選進出。4年中3年本戦進出を決めているのは素晴らしい。
評価値
序盤や仕掛けのところは先手悪くない。☖3七角成からは後手に振れており、ここまでは印象通り。進んで☖5七桂成となったところは既に互角に戻っている。☖4五桂と跳ねて難しいというのは意外だ。終盤は藤井五段勝ちのままで推移したと思ったが、そう簡単な話でもないようだ。149手目☗3八同銀の局面は先手玉に寄りが無いと思ったが、☖4八角とされるといったん受ける必要が出てくるが、そうなると☖4六歩の垂れ歩が利いてきてしまい、速度が逆転している可能性がある。実際には150手目☖3三同金が敗着となったようで、将棋は最後まで分からないものだと改めて思った。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第45回NHK杯争奪戦予選(主催:NHK、日本将棋連盟)