1996/2/16 藤井猛六段—滝誠一郎七段(順位戦)

感想

滝誠一郎七段との対局。滝七段とは初手合い。順位戦はここまで藤井六段5勝3敗、滝七段1勝7敗。

本局はいきなり驚きの一手が出る。藤井六段の初手☗6八飛!滝七段は振り飛車に対して右四間飛車を指すこともあったようで、右四間飛車の牽制だろうか。初手☗6六歩との違いはなんだろうか。1手目にして色々考えさせられる。

駆け引きがあった末相四間飛車になった。先手は☗6七銀型、後手は☖5三銀型の金無双に組み、ちょっとした違いがあるのが面白い。先手はバランスが良いが後手よりはわずかに薄い、後手は堅いが攻め味がない。どちらがどのように形の違いを主張するのか。41手目☗7四歩は7~8筋の2つの歩を交換しようとする手だが、注文には乗らず☖8二銀と手に乗って銀を前に繰り出す。後手は金無双ではなく片矢倉の形になり厚みも得た。

この将棋は中盤も面白い。51手目☗5八金右!

平成8年に流れ金無双が出た。直接的には左銀を使って攻めて行った後、☖5九銀の割り打ちを防いでいる意味があると思う。この形はその他、端や玉頭からの攻めに対して逃げやすくなっていること等、令和の現代では有用な囲いとして認識が定着している。それが1995年度に指されていた。藤井六段の柔軟性、先見性に驚くほかない。

何もしなければ棒銀で攻められる。滝七段は飛車を抑え込もうとするが、細かな動きで銀を追い返し、いよいよ左銀を前線に押し出した。62手目☖4四同角は緊急手段だが、形勢に差がついている証左でもある。67手目☗5六歩として☗5七角と打てれば完封という形。滝七段は暴れたいが端も入っておらず手段が乏しい。継ぎ歩で☖4五桂と跳び出すが、冷静に☗4六歩と桂馬を仕留めて投了。じっくり組み合った相振り飛車だったが、リスクを抑えながら一方的に攻め味を作った藤井六段の快勝譜となった。

評価値

評価値(YaneuraOu(tournament128-cl4) NNUE 20240528/tanuki-wcsc34/1手15秒)

作戦勝ちからあっという間に押し切った。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第54期順位戦B級2組(主催:毎日新聞社、日本将棋連盟)