1994/1/28 郷田真隆五段—藤井猛四段(新人王戦)

感想

郷田真隆との一戦。約2年ぶりの対戦となる。この間に郷田五段は棋聖を獲得した。

藤井四段の四間飛車に郷田五段の左銀急戦。シンプルな形ながら☗4八金や☗1六歩が入り仕掛けのタイミングがやや遅い。藤井四段はその間に☖6四歩~☖6五歩と伸ばし、☖6四角と反発できる形にした。これは対棒銀定跡でも見られる。

郷田五段は3筋、5筋、2筋と様々な筋の歩を突き捨て開戦した。5筋も交えており、中央は☖6三金から金で対応。金銀交換になったが46手目☖6六歩~☖5五銀が調子の良さそうな攻めで、振り飛車が上手く反発したのではないかと思った。何より序盤の☖6五歩を活かしているのが良い。

しかし52手目、大長考で☖2二飛と回った。一見☖6二飛が角当たり+6筋総攻撃を見据えて幸便に見えるが、そうしなかったということはなにか上手く行かない筋があるということ。私にはその手が分からなかった。ただ、☖2二飛は妥協した手のように見えて、2筋からの逆襲も見ていて決して消極的な手ではない。

55手目☗5四金。この金が手厚い金だった。藤井四段は☖2二飛からの狙い通り2筋を逆襲していくが、その隙に☖3五歩~☖3四歩で角をどかされ、後手が銀損になった。藤井四段も読み筋通りで、初志貫徹で2筋を突き進んでいく。先に銀損はしたがある程度駒損は取り返せそうだ。ただ、65手目☗5二歩成がうまい成り捨てだと思う。☖同金で後手陣は相当弱体化してしまった。

80手目の局面は後手が桂得だが、後手の桂香はすぐ取られそうだし☖3七の成銀は遊び駒になりかねず、駒得という感じはしない。本局はそれよりも陣形差が大きい。☗5二歩成がよく利いている。また☗5五金が手厚く後手陣に迫る手が見えない。

81手目☗4一飛に☖8四桂!は☗7一銀を打たせて一路遠い玉で耐える勝負手と思った。

しかし☖7六桂~☖6八桂成としても先手陣にはなお寄せの手掛かりが作れない。郷田五段はその間に基本通り「端玉には端歩」で☗9五歩から決めに行った。

郷田五段勝ち。藤井四段が描く理想をことごとく潰した郷田五段の強さを感じさせられた一局だった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

序盤は後手が良い時間帯もあると思ったがそうではなかった。52手目☖6二飛としなかった理由は☗5五角~☗2四飛という手があるようだった。なるほど、この変化は☗5三歩の垂れ歩も絶品だし先手陣への脅威もほぼなくなっている。先に銀損してからは先手に振れ、後手もうまく耐えているが、郷田五段が着実に押し切った感じだろうか。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第25期新人王戦本戦(主催:赤旗、日本将棋連盟)