1993/9/30 飯塚祐紀四段—藤井猛四段(王座戦)

感想

飯塚祐紀八段との戦い。2月以来、約7か月ぶりの対戦。最近飯塚祐紀八段昇段祝賀会が行われたという情報を目にした。いつも思うことだが、今九段や八段になった棋士の四段同士時代の棋譜を並べることができるというのは、面白さを感じる。

戦型は飯塚四段の☗5七銀左急戦に藤井四段の四間飛車+☖6四歩型美濃囲い。☖6四歩型美濃囲いは私が最も愛用する形で嬉しい。藤井四段は同じ四間飛車であっても、まったく同じ型をずっと採用することが無い。☖4三銀型であったり☖4一金型であったり、ちょっとずつ形が違う。

飯塚四段は基本形から5筋位取りに変化。☗4六歩☖1二香☗3七桂☖4一飛は『四間飛車を指しこなす本 第3巻』を勉強した人には常識的な手順。そこからすぐ仕掛けたのが早いタイミング。このタイミングであれば☗3七桂に紐がついているので振り飛車も大捌きとはいかない。そこで☖5一角と引いたのを見て、やはりプロは当然☖4四歩と打たないものだと感心する。

中盤は長考小考が続き、難解な進行であることを感じさせる。その中で藤井四段の40手目☖5二銀~☖6五歩は感動した。

先手が2枚銀でじわりじわり盛り上がっていこうとするところ、つい☖4三銀の力で対抗してしまいそうになるが、柔らかくその銀を引き、飛車の利きを通して☖3三桂を効果的にし、さらに☖7三角や☖8四角の筋を見せて裏をかこうとしている。見事な構想だと思った。攻めているのは先手の方だったが、45手目☗5七角を見て、いつの間にか先手が守勢に立たされているようだった。

46手目☖3三桂が非常に気持ちの良い一手。☗2四飛と走れるようでも、どこかで☖4五桂が飛車角両取りになる。☖3三桂に対し本当は☗3四銀と出たいところだと思うが、☗5六銀と引いたのを見て藤井四段が上手くやれているように見えた。

54手目☖5四歩もなるほどと唸る手。

☖3四歩と打ちたくなるが☖7三角と角も使えるようにすることを重要視した。

そうして69手目はお互いに捌き合った局面。藤井四段は角も飛車も成り込むことができている。

藤井四段は金損ながら、当然それは織り込み済み。陣形差は明らかだし、一方的に飛車を成り込んでいることも大きいが、そんなことよりもこの局面で厳しい一着があった。☖6九竜!が見事な一着。☗同玉に☖5七歩が継続手。☗同金は☖3六馬が王手飛車。金損の大捌きはこの順を見ていた。

この時既に藤井四段の残り時間は5分であったが、勝ち切るには十分の大勢。後手陣は鉄壁で、裸の先手玉はと金で徐々に寄せていけばよい。それでも77手目☗5五馬の王手に☖7三桂「打」としっかり投入するのは振り飛車党として覚えておかなければいけない一手。後の☗8五桂に☖同桂とできるのでまったく怖いところがない。

難解ではあったが、振り飛車の技が見られた藤井四段の好局だったと思う。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

数字としては難解な形勢がずっと続いていたようだが、大きく先手に触れることは無かった。藤井四段が終始主導権を握っていた将棋だったと思う。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第42期王座戦一次予選(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)