1993/11/29 室岡克彦六段—藤井猛四段(竜王戦)

感想

室岡克彦六段との戦い。9か月ぶりに顔を合わせた。藤井四段は竜王戦4組の初陣。

室岡六段との前回の戦いでは、室岡六段が居飛車穴熊を選択したが、本局では天守閣美濃。

序盤、まず16手目☖6四歩が目を引く。

☖6二玉型で☖6四歩と突くのは当時としては相当先進的だと思う。とにかく何かを狙っており、居飛車穴熊、あるいは天守閣美濃に対する研究が深まっているのを感じる。

室岡六段は29手目に☗3八飛と寄り、袖飛車からの急戦を見せた。この形は藤井四段にとって苦い思い出がある。

畠山鎮四段戦(1993/1/19・順位戦)では☖4五歩で負けた。本局は5分で☖6三金とした。

藤井四段によって改良手が示された。

『藤井システム』(毎日コミュニケーションズ)では、袖飛車急戦に対してこの☖6三金が最善手として詳しく解説されている。この定跡は☖6三金も含め一見意外な手が出てくるが、完成度が高く、美しい。

室岡六段は☗6六歩と止め、☗6八銀から4枚美濃に組もうとした。☗3八飛で揺さぶりをかけた格好だ。この形も『藤井システム』で解説されている。

☗6八銀に☖2二飛が機敏。この瞬間が一番☗8八角の働きが弱い。☗2八飛に☖5四歩~☖4五歩と飛車のこびんを狙っていけるため、既に振り飛車が主導権を握っている。藤井四段が明快に苦い思い出を研究で乗り越えた。

55手目室岡六段は☗1七香と逃げたが、それでも☖8五歩。角の利き+玉頭攻めが刺さろうとしている。

63手目からの手順は凄まじかった。室岡六段は☗5三歩と飛車取りで歩を叩き、取れば☗2二飛成で飛車を成り込めるというところ、藤井四段はもはやこの歩さえ放置して☖9九角成!

☗5二歩成がさらに☖6一の金に当たるが、そんなのお構いなしだった。

78手の短手数で快勝。畠山鎮四段戦(1993/1/19・順位戦)という前段を知ってから本局を並べたことで、勝利や内容に感動できた。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

5五の地点で捌いたところは既に振り飛車良し。藤井四段の素晴らしい研究。そして64手目☖9九角成からは評価値上でも一気に決まった。先手側だけ急所に手がついている状態で、角の利き+玉頭攻めの威力を目の当たりにした。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
  2. 小倉久史・杉本昌隆・藤井猛『振り飛車党宣言!④四間飛車対左美濃』(毎日コミュニケーションズ)

棋戦情報

第7期竜王戦ランキング戦4組(主催:読売新聞社、日本将棋連盟)